転注(てんちゅう)とは

転注(てんちゅう)とは、漢字を分類する伝統的な枠組み「六書(りくしょ)」のひとつです。仮借(かしゃ)と同じく漢字の用法による分類とされますが、その解釈には古くから定説がなく、六書の中でもっとも理解が難しい分類として知られています。

転注の位置づけ

六書のうち「象形・指事・会意・形声」は、漢字がどのように作られたかという構造の分類です。これに対し、転注と仮借は、すでにある漢字をどのように使うかという用法の分類とされています。新しく字を作るのではなく、既存の字に新たな意味や用法を与える仕組み、と位置づけられます。

ただし、転注については、その内容を説明した最も古い記述自体が短く、後世の学者によって解釈が大きく分かれてきました。そのため「転注とは何か」をひとことで言い切ることは難しく、いくつかの代表的な説を知っておくことが理解の助けになります。

よく挙げられる例 ―「楽」

転注の例として、辞典や解説書でしばしば取り上げられるのが「楽」の字です。

「楽」の説明例「楽」はもともと音楽を表す字であったとされます。その音楽が人々を楽しませることから、意味が広がって「たのしい」という意味でも使われるようになった、と説明されることがあります。このように、ある字の意味が、関連する別の意味へと転じていく現象が転注の例としてよく挙げられます。

なお「楽」は、「ガク(音楽)」と「ラク(たのしい)」のように読みも変化しています。意味の転用とともに読みが分かれた例として紹介されることもあります。

ただし、この「楽」の説明も転注の理解のしかたのひとつであり、どの字を転注の例とするかは、よりどころとする学説によって異なります。

転注の解釈 ―主な説の整理

転注の解釈には大きく分けていくつかの方向性があります。代表的な考え方を整理すると、次のようになります。

考え方 転注のとらえ方
意味の転用とする説 ある字の意味が、関連する別の意味へと派生・転用していくことを転注とする考え方。「楽(音楽→たのしい)」などが例として挙げられる。
意味の近い字を結びつける説 意味が互いに通じ合う字どうしを、同じなかまとして関連づけることを転注とする考え方。
字形・部首に注目する説 同じ部首のもとで意味が互いに注釈し合うような関係を転注とみる考え方。
読み(音)の変化に注目する説 意味の広がりにともなって読みが分かれていく現象を重くみる考え方。

これらは互いに排他的なものではなく、重なり合う部分もあります。いずれにしても、転注は「こう解釈するのが正しい」と一つに定めることが難しい分類であり、辞典や研究者によって説明の幅があることを知っておくとよいでしょう。

転注と仮借の違い

転注は、同じ用法分類である仮借としばしば対で語られます。どちらも「すでにある字を活用する」方法ですが、活用のしかたが異なります。

観点 転注 仮借
活用のしかた 字の意味を、関連する別の意味へ広げて使う(解釈には諸説あり) 字の意味とは関係なく、同じ・近い音だけを借りて別の語を表す
意味のつながり もとの意味と新しい意味の間に関連があるとされる もとの意味と借りた先の語の間に意味の関連はない
よく挙げられる例 楽 豆・我

大まかには、意味のつながりを利用するのが転注、音だけを利用するのが仮借と整理されます。仮借について詳しくは仮借(かしゃ・かしゃく)のページをご覧ください。

補足転注は、六書の中でも実際の漢字学習で意識される場面が少ない分類です。漢字検定や学校の学習でも、「象形・指事・会意・形声」の四つほど重視されないのが一般的です。これは、転注の定義そのものに定説がなく、具体的にどの字が転注にあたるかを断定しにくいことが理由のひとつといえます。転注については「解釈が一つに定まっていない分類である」という点を押さえておけば十分でしょう。

■ まとめ
転注(てんちゅう)とは、六書のひとつで、仮借と同じく漢字の用法による分類とされる方法です。ある字の意味が関連する別の意味へ転じていく現象として説明されることが多く、「楽(音楽→たのしい)」がその例としてよく挙げられます。
ただし転注は、古くから解釈に定説がなく、六書の中でもっとも理解の難しい分類です。漢字の成り立ちを学ぶうえでは、まず構造による四分類をしっかり押さえ、転注は「諸説ある用法分類」として大まかに捉えておくとよいでしょう。

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