熟字訓と当て字とは?違いと例

漢字の読み方の中には、漢字一字ずつの読みを足し合わせては読めない、特別な読みのまとまりがあります。代表的なのが熟字訓(じゅくじくん)当て字(あてじ)です。「明日(あす)」や「五月雨(さみだれ)」、「亜米利加(アメリカ)」のような読み方を指します。このページでは、両者の違いと代表的な例、常用漢字表での扱いまでをわかりやすく整理して解説します。

熟字訓と当て字の違い

結論

熟字訓は、二字以上の漢字のまとまり全体に、その意味にあたる日本語をあてた読み方です。当て字は、漢字本来の意味と関係なく、音や意味を借りて言葉を漢字で書き表したものです。

大まかにいえば、熟字訓は意味から漢字に結びつけたもの、当て字は音から漢字に結びつけたものと捉えるとわかりやすいでしょう。

たとえば「明日」を「あす」と読むのは熟字訓です。「明」が「あ」、「日」が「す」に対応しているわけではなく、「明日」という二字のまとまり全体に「あす」という日本語があてられています。一方、「亜米利加」を「アメリカ」と書くのは当て字です。「亜」「米」「利」「加」それぞれの漢字本来の意味は問わず、音を借りて外来語を書き表しています。

観点 熟字訓 当て字
結びつけ方 漢字の意味から日本語をあてる 漢字のなどを借りて書き表す
注目する側 主に「読み方」を指す 主に「書き表し方」を指す
明日(あす)
五月雨(さみだれ)
田舎(いなか)
亜米利加(アメリカ)
倶楽部(クラブ)
珈琲(コーヒー)

補足熟字訓と当て字は、もともとは別の概念ですが、外見が似ているため一緒に扱われることもよくあります。漢字検定の問題集などでも、両者を区別せず「熟字訓・当て字」とまとめて扱うことが少なくありません。本ページでも、両者を分けて整理しつつ、合わせて見ていきます。

熟字訓とは

熟字訓の意味

熟字訓とは、二字以上の漢字からなる熟字(じゅくじ)に対して、まとまり全体に訓読みをあてた読み方のことです。漢字一字一字の読みを足し合わせても出てこないため、その熟字の読みをあらかじめ知らないと読めない点が特徴です。

たとえば「明日」は「あす」と読みますが、「明」も「日」も単独では「あ」「す」とは読みません。「明日」という二字全体に「あす」という日本語があてられているのです。訓読みの一種ではありますが、一字ごとに分解できない点で、通常の訓読みとは区別されます。

熟字訓の代表例

熟字訓には、日常的に使われるものが数多くあります。代表的な例を挙げると次のとおりです。

熟字訓 読み
明日 あす
昨日 きのう
今日 きょう
大人 おとな
田舎 いなか
五月雨 さみだれ
七夕 たなばた
果物 くだもの
土産 みやげ
紅葉 もみじ
小豆 あずき
梅雨 つゆ
師走 しわす
時雨 しぐれ
名残 なごり

このように、漢字一字ずつには対応しない、まとまり全体での読みが熟字訓です。意味のうえでは「明日(あした)」「果物(かじつ)」のように、別の読みでもよさそうなものに、特別な日本語があてられているケースが多く見られます。

当て字とは

当て字の意味

当て字とは、漢字が本来持っている意味とは関係なく、意味を借りて、ある言葉を漢字で書き表したものをいいます。「読み方」というよりも「書き表し方」に注目した呼び方で、外来語や固有名詞を漢字で表記する場面でとくによく使われます。

当て字の代表例

当て字には、漢字の音を借りたもの・意味を借りたもの・両方が混ざったものなどがあります。代表的な例を挙げると次のとおりです。

当て字 読み 当て方
亜米利加 アメリカ 地名の音に漢字を当てたもの
仏蘭西 フランス 地名の音に漢字を当てたもの
倶楽部 クラブ 外来語の音に漢字を当てたもの
型録 カタログ 外来語の音に漢字を当てたもの
珈琲 コーヒー 外来語の音に漢字を当てたもの
燐寸 マッチ 外来語の音に漢字を当てたもの
沢山 たくさん 音に漢字を当てたもの
素敵 すてき 音に漢字を当てたもの
滅茶苦茶 めちゃくちゃ 音に漢字を当てたもの

外来語の当て字は、現在ではカタカナで書かれることがほとんどですが、明治時代から昭和初期にかけては漢字での表記がよく用いられていました。当時の名残として、看板や古い書物などで現在も目にすることがあります。

常用漢字表「付表」の熟字訓・当て字

熟字訓や当て字のうち、社会に広く定着しているものは、常用漢字表付表(ふひょう)として一覧で示されています。文化庁が告示する常用漢字表は、本表で字種・音訓・字体を示しているほか、付表として「二字以上で特別な読み方をするもの」をまとめて掲げています。

付表には、現在の常用漢字表(平成22年内閣告示)で116語(123表記)が示されています。義務教育で学習する熟字訓は、おおむねこの付表に含まれるものが対象になります。

分類 付表に含まれる例
日付・季節 明日(あす)/昨日(きのう)/今日(きょう)/今朝(けさ)/今年(ことし)/七夕(たなばた)/梅雨(つゆ)/師走(しわす)/五月雨(さみだれ)/時雨(しぐれ)
家族・人物 お父さん(おとうさん)/お母さん(おかあさん)/大人(おとな)/乙女(おとめ)/叔父・伯父(おじ)/叔母・伯母(おば)/玄人(くろうと)/素人(しろうと)
自然・身のまわり 小豆(あずき)/海原(うなばら)/田舎(いなか)/景色(けしき)/果物(くだもの)/清水(しみず)/芝生(しばふ)/土産(みやげ)/紅葉(もみじ)
慣用・その他 為替(かわせ)/風邪(かぜ)/笑顔(えがお)/真面目(まじめ)/木綿(もめん)/八百長(やおちょう)/一人(ひとり)/二人(ふたり)/二十日(はつか)

補足常用漢字表の付表に示されている熟字訓・当て字は、社会に広く定着しているものに限られています。付表に挙げられていない熟字訓・当て字も数多くあり、漢和辞典や国語辞典には、それぞれの編集方針に応じてさまざまな読みが収録されています。

熟字訓・当て字に関わる注意点

熟字訓と当て字をめぐっては、いくつか知っておくと役に立つ注意点があります。

「玄人・素人」は厳密には熟字訓ではない

玄人(くろうと)」「素人(しろうと)」のように、二字で特別な読みをするものは熟字訓のように見えますが、これらは「玄=くろ/素=しろ/人=ひと」と一字ずつ分解して説明できるため、厳密には熟字訓には含めない考え方があります。ただし、常用漢字表の付表には掲載されており、漢字検定などの問題集では熟字訓・当て字として扱われることが一般的です。

熟字訓と音読みで意味が変わる例

同じ漢字の組み合わせでも、熟字訓で読むか音読みで読むかで意味が変わるものがあります。たとえば「今日」は、「きょう」と読めば本日のこと、「こんにち」と読めば「最近・このごろ」という別の意味を表します。文章の中でどちらの意味で使われているかに応じて、読み方も自然に変わります。

関連する読み方との関係

熟字訓・当て字は、漢字の読み方をめぐる仕組みのひとつです。漢字の読み方全般の基本は音読みと訓読みとはのページで、音と訓が混ざった熟語の読み方については重箱読みと湯桶読みとはのページで解説しています。あわせて常用漢字表に示されていない読み方については、表外読み(表外音訓)のページもご覧ください。

■ まとめ
熟字訓は、二字以上のまとまり全体に日本語をあてた読み方で、「明日(あす)」「五月雨(さみだれ)」「大人(おとな)」などが代表例です。当て字は、漢字の意味と関係なく音などを借りて言葉を書き表したもので、「亜米利加(アメリカ)」「倶楽部(クラブ)」などがあります。
両者は本来別の概念ですが、外見が似ているため漢字検定の問題集などでは一緒に扱われることもあります。常用漢字表の付表には、社会に広く定着した熟字訓・当て字116語(123表記)が示されており、これが学習や試験の中心となる範囲です。音読みと訓読み重箱読み・湯桶読みとあわせて知っておくと、漢字の読み方の全体像をより立体的に捉えることができます。

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