仮借(かしゃ・かしゃく)とは

仮借(かしゃ・かしゃく)とは、ある語を書き表す字がないとき、同じ音や近い音を持つ別の字を借りて、その語を表す方法です。漢字を分類する伝統的な枠組み「六書(りくしょ)」のひとつで、転注(てんちゅう)と同じく漢字の用法による分類とされます。

仮借の意味

象形・指事・会意・形声が、新しく文字を作り出す方法であるのに対し、仮借は新しい字を作りません。すでにある字の音だけを借りて、本来とは別の語の表記に転用する方法です。

言葉として存在していても、それを書き表す漢字がない――そうしたとき、意味は関係なく、同じ響きを持つ字を当てはめて表記しました。借りられた字は、字の形や本来の意味とは無関係に、音の器として使われることになります。

代表的な仮借の例

仮借によって本来の意味とは別の意味で使われるようになった漢字には、次のようなものがあります。

漢字 もとの意味(字源) 仮借で表す意味
食物を盛る高坏(たかつき)という脚付きの器をかたどった象形文字 同じ音であった「まめ」を表す字として借用された
刃のついた武器の形をかたどった象形文字 一人称代名詞「われ」を表す字として借用された
穀物などをふるう「箕(み)」をかたどった象形文字 指示語の「その・それ」を表す字として借用された

これらの字では、現在ふつうに使われている意味のほうが仮借による意味であり、字源としての本来の意味は、いまではほとんど意識されなくなっています。なお「其」のように、もとの意味を新たに表すため、後から部品を加えた字(「箕」)が別に作られた例もあります。

仮借文字の特徴

仮借には、ほかの分類と比べて次のような特徴があります。

  • 新しい字を作らない:仮借は、字を生み出す方法ではなく、すでにある字を活用する方法です。この点で、構造による四分類(象形・指事・会意・形声)とは性質が異なります。
  • 意味ではなく音を借りる:借りるのはあくまで字の音であり、もとの字の意味は引き継ぎません。意味のつながりを利用する転注とは、ここが大きく異なります。
  • 抽象的な語の表記に役立った:代名詞・指示語・助字など、形に表しにくく象形や指事では作りにくい語を書き表すうえで、仮借は大きな役割を果たしました。

外来語の当て字と仮借

「音を借りて語を表す」という仮借の発想は、外来語を漢字で書き表す当て字にも通じています。意味ではなく音に着目して漢字を当てる点が共通しているためです。

当て字 読み 当て方
亜細亜 アジア 地名の音に、意味と関係なく漢字を当てたもの
亜米利加 アメリカ 地名の音に、意味と関係なく漢字を当てたもの
珈琲 コーヒー 飲み物の音に漢字を当てたもの

補足厳密にいえば、六書の仮借は古代中国で漢字が成立していく過程での用法を指すものであり、日本での外来語の当て字とまったく同じものではありません。ただし、字の意味を切り離し、音だけを利用して語を表記するという発想は共通しています。仮借の考え方を知っておくと、当て字のしくみも理解しやすくなります。

仮借と転注の違い

仮借は、同じ用法分類である転注としばしば対で語られます。どちらも「すでにある字を活用する」方法ですが、活用のしかたが異なります。

観点 仮借 転注
活用のしかた 字の意味とは関係なく、同じ・近い音だけを借りて別の語を表す 字の意味を、関連する別の意味へ広げて使う(解釈には諸説あり)
意味のつながり もとの意味と借りた先の語の間に意味の関連はない もとの意味と新しい意味の間に関連があるとされる
よく挙げられる例 豆・我・其

大まかには、音だけを利用するのが仮借、意味のつながりを利用するのが転注と整理されます。転注について詳しくは転注(てんちゅう)のページをご覧ください。

補足仮借は、転注に比べれば「どの字が仮借にあたるか」が比較的はっきりしている分類です。ただし、ある字の用法を仮借とみるか、意味の転用(転注)とみるかは、字源の解釈によって判断が分かれることもあります。仮借も転注と同じく用法による分類であり、構造による四分類とは性質が異なる、という点を押さえておくとよいでしょう。

■ まとめ
仮借(かしゃ・かしゃく)とは、ある語を表す字がないとき、同じ音や近い音の別の字を借りてその語を表す方法で、六書のひとつです。新しく字を作るのではなく、字の音だけを借りる点に特徴があり、「豆(たかつき→まめ)」「我(武器→われ)」などが代表例として挙げられます。
意味のつながりを利用する転注とは対照的に、仮借は意味と切り離して音を利用します。漢字の成り立ちを学ぶうえでは、仮借と転注を「用法による二分類」としてセットで捉えると理解しやすくなります。

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