「かかる・かける」の使い分け(掛かる・懸かる・架かる・係る・賭ける)
同じ「かかる」「かける」と読む漢字には、掛かる・懸かる・架かる・係る・賭けるなどがあります。多くの場面で使われる「掛かる・掛ける」、宙にあることや成否・命などを託す「懸かる・懸ける」、橋や電線を渡す「架かる・架ける」、関係する意味の「係る」、金品や人生などを勝負に出す「賭ける」と整理されます。ただし、「係る」は主に「かかる」と読み、「賭ける」は主に「かける」と読むため、すべてが自動詞・他動詞の組み合わせとして対応するわけではありません。このページでは、文化庁の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。
「かかる・かける」の書き分け ―結論
掛かる/掛ける = 作用する・負担が及ぶ・ぶら下げる・上からかぶせる・腰を下ろす(迷惑が掛かる・時間が掛かる/看板を掛ける・腰を掛ける)
懸かる/懸ける = 宙にある・成否や命などが関わる・強く託す(月が中天に懸かる・優勝が懸かる/命を懸ける)
架かる/架ける = 一方から他方へ渡す・かけ渡す(橋が架かる/橋を架ける・電線を架ける)
係る = 関係する・関わる(本件に係る訴訟・名誉に係る問題)
賭ける = 金品などを勝負に出す・結果にゆだねる(大金を賭ける・勝負に賭ける)
分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「掛かる」は負担・作用・引っ掛けること、「懸かる」は懸賞・懸念・懸命の「懸」、「架かる」は架橋・架線・高架の「架」、「係る」は関係・係争・係員の「係」、「賭ける」は賭博・賭場の「賭」と考えると、意味の方向をつかみやすくなります。
一覧で見る使い分け
五つの「かかる・かける」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。
| 漢字 | 意味の中心 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|
| 掛かる 掛ける |
作用する・負担が及ぶ・物を掛ける・腰を下ろす | 迷惑が掛かる 時間が掛かる 看板を掛ける 腰を掛ける |
| 懸かる 懸ける |
宙にある・成否や命などが関わる・強く託す | 月が中天に懸かる 優勝が懸かる 命を懸ける 願を懸ける |
| 架かる 架ける |
一方から他方へ渡す | 橋が架かる 橋を架ける 電線を架ける |
| 係る | 関係する・関わる | 本件に係る訴訟 名誉に係る問題 係り結び |
| 賭ける | 金品などを勝負に出す・結果にゆだねる | 大金を賭ける 勝負に賭ける 人生を賭ける |
以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。
掛かるかかる / 掛けるかける
掛かる・掛けるは、「かかる・かける」の中でもっとも用法の広い字です。物がぶら下がる・何かが及ぶ・作用する・費用や時間を必要とする・物を上からかぶせるなど、幅広い意味で使われます。「迷惑が掛かる」「電話を掛ける」「保険を掛ける」「腰を掛ける」のように、日常でよく使われる表記です。
主な意味と用法(掛かる)
- 負担・影響などが及ぶ:迷惑が掛かる/負担が掛かる/疑いが掛かる
- 時間・費用・手間を必要とする:時間が掛かる/お金が掛かる/手間が掛かる
- 作用する・働く:ブレーキが掛かる/圧力が掛かる/鍵が掛かる
- 物がぶら下がる・掛けられている:壁に絵が掛かる/コートが掛かる
- 始まる・機械などが動く:電話が掛かる/エンジンが掛かる
主な意味と用法(掛ける)
- 物をつるす・ぶら下げる:看板を掛ける/服をハンガーに掛ける/壁に絵を掛ける
- 上からかぶせる・注ぐ:布団を掛ける/水を掛ける/声を掛ける
- 作用させる:ブレーキを掛ける/鍵を掛ける/魔法を掛ける
- 費用・時間・手間を使う:時間を掛ける/手間を掛ける/費用を掛ける
- 座る・腰を下ろす:椅子に腰を掛ける/ベンチに掛ける
- 保険・電話・計算などに用いる:保険を掛ける/電話を掛ける/数を掛ける
例文
- 急な依頼で、相手に大きな迷惑が掛かってしまった。
- この作業には思った以上に時間が掛かる。
- 玄関の鍵を掛けてから外出した。
懸かるかかる / 懸けるかける
懸かる・懸けるは、宙に浮く・高い所にある・成否や命などが関わる・願いや望みを託す場合に使います。「月が中天に懸かる」「優勝が懸かる」「命を懸ける」のように、単に物を掛けるというより、空中にあることや、重要なものを託す意味が中心になります。
主な意味と用法(懸かる)
- 宙にある・高い所にある:月が中天に懸かる/雲が山に懸かる
- 成否・結果などが関わる:優勝が懸かる/名誉が懸かる/将来が懸かる
主な意味と用法(懸ける)
- 願い・望みなどを託す:願を懸ける/期待を懸ける/望みを懸ける
- 命・名誉など大切なものを差し出す覚悟で臨む:命を懸ける/名誉を懸ける/社運を懸ける
- 賞金・懸賞などを示して求める:賞金を懸ける/懸賞を懸ける
例文
- 満月が夜空に大きく懸かっていた。
- この試合には、チームの優勝が懸かっている。
- 彼は命を懸けて仲間を守った。
ご注意「懸ける」は、願い・期待・命・名誉など、抽象的で重いものを託す場面で使われます。一方、「帽子を掛ける」「電話を掛ける」「保険を掛ける」のような日常的な作用や操作には、通常「掛ける」を使います。
架かるかかる / 架けるかける
架かる・架けるは、一方から他方へ渡す・かけ渡す場合に使う字です。橋・鉄橋・電線・ケーブルなど、二つの地点をつなぐものに用いられます。具体的に「渡す」形が意識されるときは、「掛」ではなく「架」を選ぶと分かりやすくなります。
主な意味と用法(架かる)
- 橋などが一方から他方へ渡されている:橋が架かる/鉄橋が架かる/歩道橋が架かる
- 線状・帯状のものが渡っている:電線が架かる/ケーブルが架かる
主な意味と用法(架ける)
- 橋などをかけ渡す:橋を架ける/鉄橋を架ける/歩道橋を架ける
- 線・設備などを渡す:電線を架ける/ケーブルを架ける
例文
- 川の両岸に新しい橋が架かった。
- 山あいの集落まで電線を架ける工事が進んでいる。
- 谷をまたいで、長いつり橋が架かっている。
ご注意「架」は、橋・線・ケーブルなどを渡す意味が中心です。「看板をかける」「布団をかける」「声をかける」のように、渡す意味がない場合には「架ける」とは書きません。
係るかかる
係るは、関係する・関わるという意味で使う字です。「本件に係る訴訟」「名誉に係る問題」のように、法律文書・公用文・改まった文章でよく見られます。日常的な文章では「関わる」「関係する」と言い換えた方が自然な場合もあります。
主な意味と用法(係る)
- 関係する・関わる:本件に係る訴訟/名誉に係る問題/契約に係る事項
- 文法・役割などの関係を表す語に用いる:係り結び/係り受け/係員
例文
- 本件に係る資料をすべて確認する。
- 個人情報に係る内容は、慎重に取り扱う必要がある。
- 文の係り受けを確認すると、意味が分かりやすくなる。
ご注意「係る」は、主に「かかる」と読む語で、「係ける」という形は普通使いません。また、「時間が係る」「迷惑が係る」のように、負担や影響が及ぶ意味では「掛かる」を使います。
賭けるかける
賭けるは、金品などを勝負に出す・結果にゆだねる場合に使います。中心になるのは、賭博・賭場などの「賭」で、何かを失う危険を引き受けて勝負する意味です。「大金を賭ける」「勝負に賭ける」のように使います。
主な意味と用法(賭ける)
- 金品などを勝負に出す:大金を賭ける/持ち金を賭ける/賭け事をする
- 失う危険を承知で勝負する:勝負に賭ける/最後の一手に賭ける
- 人生・名誉などを勝負にゆだねる:人生を賭ける/名誉を賭ける
例文
- 彼は大金を賭けて勝負に出た。
- チームは最後の攻撃にすべてを賭けた。
- 彼女は人生を賭けて研究に取り組んだ。
ご注意「賭ける」は、主に「かける」と読む他動詞です。「優勝が賭かる」「大金が賭かる」のような自動詞の形は一般には避け、「優勝が懸かる」「大金を賭ける」のように書き分けると自然です。
迷いやすいケース
「かかる・かける」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。
「時間がかかる」は「掛かる」
「時間がかかる」「お金がかかる」「手間がかかる」など、時間・費用・労力を必要とする場面は「掛かる」を使います。「時間を掛ける」「手間を掛ける」のように他動詞でも同じ字を使います。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 時間が掛かる | 時間を必要とする | 完成まで三日掛かる |
| 時間を掛ける | 時間を使って丁寧に行う | 時間を掛けて調べる |
「命をかける」は「懸ける」か「賭ける」か
「命をかける」は、命を差し出すほど真剣に行う意味では「命を懸ける」が標準的です。一方、勝負や結果にゆだねる意味を強く出す場合には「命を賭ける」も使われます。実際の文章では両方が見られますが、改まった解説文では「命を懸ける」を基本にすると無難です。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 命を懸ける | 命を差し出すほど強く託す・真剣に行う | 命を懸けて守る |
| 命を賭ける | 勝負や結果に命をゆだねる | 生死を賭けた勝負 |
「人生をかける」は「懸ける」か「賭ける」か
「人生をかける」も、「命をかける」と同じようにどちらでも書ける表現です。全力を尽くす・大切なものを託すという意味なら「人生を懸ける」、結果の読めない勝負にゆだねるニュアンスを強く出す場合には「人生を賭ける」も使われます。実際の文章では両方が見られますが、改まった解説文では「人生を懸ける」を基本にすると無難です。
「賞金をかける」は「懸ける」と「賭ける」で意味が変わる
「賞金をかける」は、勝った人に与える賞金を示す意味なら「賞金を懸ける」です。一方、自分の金を勝負に出す意味なら「お金を賭ける」「大金を賭ける」となります。「賞金を賭ける」と書くと、賞金そのものを賭け事に出す意味に読まれる可能性があります。
「橋をかける」は「架ける」
「橋をかける」「電線をかける」など、一方から他方へ渡す意味では「架ける」を使います。「橋が架かる」「橋を架ける」「電線を架ける」のように、構造物や線を渡す場面に向く字です。なお、「虹がかかる」については、橋や電線のように人が差し渡すものではないため表記が揺れやすく、「架かる」「掛かる」のほか、仮名で「かかる」と書くこともよく行われます。
「電話をかける」は「掛ける」
「電話をかける」は「掛ける」を使います。「電話が掛かる」「電話を掛ける」のように、自動詞・他動詞のどちらでも「掛」です。「電話を懸ける」「電話を架ける」「電話を賭ける」とは書きません。
「本件にかかる」は「係る」
「本件にかかる訴訟」「契約にかかる事項」など、関係する・関わるという意味では「係る」を使います。ただし、かなり改まった表記なので、一般向けの文章では「本件に関する」「契約に関わる」とした方が読みやすい場合もあります。
「期待をかける」は文脈で判断する
「期待をかける」は、願いや望みを託す意味では「期待を懸ける」が対応します。ただし、日常的には「期待をかける」と仮名で書くことも多く、「声を掛ける」「迷惑を掛ける」のような具体的な作用とは違って、表記が揺れやすい語です。迷う場合は、無理に漢字にせず「期待をかける」と書くのも自然です。
活用しても書き分けの基準は変わらない
「かかる」はラ行五段活用、「かける」は下一段活用です。活用形が変わっても、意味に応じた漢字の選び方は変わりません。
| 基本形 | 活用例 | 使い方 |
|---|---|---|
| 掛かる | 掛からない・掛かります・掛かった・掛かって | 時間が掛かった 迷惑が掛からないようにする |
| 掛ける | 掛けない・掛けます・掛けた・掛けて | 鍵を掛けた 声を掛けてください |
| 懸かる | 懸からない・懸かります・懸かった・懸かって | 優勝が懸かっている 将来が懸かった試験 |
| 懸ける | 懸けない・懸けます・懸けた・懸けて | 命を懸けた戦い 願を懸けて祈る |
| 架かる | 架からない・架かります・架かった・架かって | 橋が架かった 鉄橋が架かっている |
| 架ける | 架けない・架けます・架けた・架けて | 橋を架けた 電線を架けている |
| 係る | 係らない・係ります・係った・係って (「係る+名詞」の形が多い) |
本件に係る資料 契約に係る事項 |
| 賭ける | 賭けない・賭けます・賭けた・賭けて | 大金を賭けた 勝負に賭ける |
対応する「かかる」「かける」がそろわないものもある
「掛かる/掛ける」「懸かる/懸ける」「架かる/架ける」は、自動詞「かかる」と他動詞「かける」が対応します。一方、「係る」は主に自動詞的に使われ、「賭ける」は主に他動詞として使われます。
| 意味 | かかる | かける | 例 |
|---|---|---|---|
| 負担・作用・ぶら下げる | 掛かる | 掛ける | 時間が掛かる 鍵を掛ける |
| 宙にある・託す | 懸かる | 懸ける | 優勝が懸かる 命を懸ける |
| かけ渡す | 架かる | 架ける | 橋が架かる 橋を架ける |
| 関係する | 係る | 通常は用いない | 本件に係る訴訟 |
| 賭け事・勝負 | 通常は用いない | 賭ける | 大金を賭ける |
補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「懸ける」と「賭ける」のように、文脈によってどちらも使われる場面があります。また、抽象的な表現では「かかる」「かける」と仮名で書く方が読みやすい場合もあります。迷ったときは、関連する熟語(掛け売り・壁掛け/懸賞・懸命/架橋・架線/関係・係争/賭博・賭場)を思い浮かべると、選びやすくなります。
■ まとめ
「かかる・かける」と読む漢字には、掛かる・懸かる・架かる・係る・賭けるなどがあります。もっとも広く使われるのは「掛かる・掛ける」で、迷惑・時間・費用・作用・電話・腰掛けなど多くの場面に使います。「懸かる・懸ける」は、宙にあることや、成否・命・願いなどを託す場面、「架かる・架ける」は橋や電線などをかけ渡す場面に使います。
「係る」は関係するという意味で、主に改まった文章に用いられます。「賭ける」は金品や人生などを勝負に出す意味です。すべてが「かかる/かける」の形で対になるわけではないため、「係る」は「関係する」、「賭ける」は「賭博・勝負」と結びつけて考えると迷いにくくなります。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。
