同訓異字(異字同訓)とは
同訓異字(どうくんいじ)とは、訓読みが同じで漢字が異なる言葉のことです。異字同訓(いじどうくん)とも呼ばれます。たとえば「あう」には「会う・合う・遭う・逢う」、「とる」には「取る・撮る・採る・執る」など、複数の漢字があてられ、意味によって書き分けます。このページでは、同訓異字の基本と、代表的な使い分け例をご紹介します。
同訓異字とは
同訓異字は、同じ訓読みを持つ複数の漢字のことです。日本語の「やまとことば」を漢字で書き表すときに、意味の違いに応じて漢字を選んで書くため、こうした書き分けが生まれました。
たとえば「ナク」というやまとことばも、声を出して泣く場合は「泣く」、鳥や動物がなく場合は「鳴く」と、意味によって漢字を書き分けます。
同訓異字は、漢字を意味の違いに対応させて使い分けるという、日本語ならではの工夫です。漢字本来の意味をふまえて書き分けることで、同じ読みでも文章の意味をより細やかに表すことができます。
使い分けのよりどころ ―文化庁「異字同訓の漢字の使い分け例」
同訓異字の書き分けの公的な目安として、文化庁の『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』があります。文化審議会国語分科会が平成26年(2014年)2月21日にまとめたもので、昭和47年(1972年)の旧手引きをおよそ42年ぶりに見直し、現在の使われ方に合わせて整理し直されました。
この使い分け例では、「あう」「とる」「みる」など、訓読みごとに項目を立てて、それぞれの漢字の意味と用例を示しています。同訓異字の書き分けに迷ったときの参考として、もっとも標準的なよりどころとなっています。
ご注意文化庁のこの使い分け例は、あくまで「ひとつの参考として示すもの」とされており、ここに示された使い方以外を否定するものではないと明記されています。とくに文学作品や個人の文章では、ニュアンスや表現意図に応じて、こことは異なる書き分けが選ばれることもあります。本ページの一覧も、迷ったときの目安としてご活用ください。
同訓異字の三つの種類
同訓異字は、漢字どうしの意味の関係から、おおむね次の三つの種類に整理することができます。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| A. 意味がほぼ同じ | 意味の重なりが大きく、どちらを書いても差し支えないことが多い | 作る/造る |
| B. 意味が近いが書き分けられる | 意味の違いがあり、文脈に応じて使い分ける | 早い/速い 暖かい/温かい |
| C. たまたま訓が同じ | もとの意味はまったく異なるが、訓読みが偶然同じ | 泣く/鳴く 切る/斬る |
このうち、日常で迷いやすいのは主にBのタイプです。「早い」と「速い」のように、似てはいるけれど書き分けに意味のある組み合わせは、書き手の意図を読み手に伝える上でも大切な区別になります。
代表的な同訓異字の一覧
ここでは、日常でとくによく使われる同訓異字を取り上げ、それぞれの漢字の主な意味と例を簡潔にまとめます。文化庁の使い分け例に沿った内容で、迷ったときの目安としてご活用ください。
会う・合う・遭う あう
会う人と顔を合わせる(友人に会う・お客様と会う) 合う一致する・調和する(意見が合う・寸法が合う・話が合う) 遭う偶然の出来事に出くわす(事故に遭う・にわか雨に遭う)
上がる・揚がる・挙がる あがる
上がる位置・程度・段階が高くなる(屋上に上がる・成績が上がる・値段が上がる) 揚がる空中・水面などに高く掲げられる(旗が揚がる・花火が揚がる・天ぷらが揚がる) 挙がるはっきりと示される(証拠が挙がる・名前が挙がる・成果が挙がる)
表す・現す・著す あらわす
表す気持ちや考えを示す(喜びを表す・言葉に表す) 現す姿や形が見えるようになる(姿を現す・本性を現す) 著す本などを書きあらわす(書物を著す)
暖かい・温かい あたたかい
暖かい気温や気候について(暖かい春・部屋を暖かくする) 温かい物の温度や心情について(温かいスープ・温かい言葉)
熱い・暑い・厚い あつい
熱い物の温度が高い(熱いお茶・熱い思い) 暑い気温が高い(暑い夏・部屋が暑い) 厚い厚みがある・程度が深い(厚い本・厚いもてなし)
写す・映す うつす
写すそのまま書き取る・撮影する(ノートを写す・写真を写す) 映す光や像をうつし出す(鏡に映す・スクリーンに映す)
収める・納める・治める・修める おさめる
収めるきちんとしまう・成果を得る(成果を収める・カメラに収める) 納める納入する(税金を納める・品物を納める) 治める統治する・しずめる(国を治める・痛みを治める) 修める身につける・整える(学問を修める・身を修める)
堅い・固い・硬い かたい
堅いしっかりして崩れない(堅い守り・口が堅い) 固い結びつきが強い・揺るがない(固い決意・固い約束) 硬い物の質が硬く、やわらかさの反対(硬い石・表情が硬い)
聞く・聴く きく
聞く音や声が耳に入る・尋ねる(物音を聞く・道を聞く) 聴く注意を向けて耳を傾ける(音楽を聴く・講演を聴く)
答える・応える こたえる
答える質問や呼びかけに返事をする(質問に答える) 応える働きかけに反応する・身にしみる(期待に応える・寒さが応える)
作る・造る・創る つくる
作る比較的小さなものを作る・一般的に用いる(料理を作る・俳句を作る) 造る大きなものや酒などを造る(船を造る・酒を造る) 創る新しく生み出す(新しい文化を創る)
勤める・努める・務める つとめる
勤める勤務する(会社に勤める) 努める努力する(解決に努める) 務める役目・任務を果たす(司会を務める・主役を務める)
取る・捕る・採る・執る・撮る とる
取る手にする・引き受ける(メモを取る・連絡を取る) 捕るつかまえる(魚を捕る・ねずみを捕る) 採る選んで取り入れる・採取する(人材を採る・血を採る) 執る事を行う・指揮する(指揮を執る・事務を執る) 撮る写真・映像を撮影する(写真を撮る・映像を撮る)
直す・治す なおす
直す正しい状態にもどす(誤りを直す・服装を直す) 治す病気やけがを治癒する(風邪を治す・けがを治す)
早い・速い はやい
早い時刻・時期が前のほう(朝早い・早い時期) 速い動きや速度が大きい(流れが速い・足が速い)
計る・量る・測る・図る・諮る・謀る はかる
計る数や時間を数える(時間を計る・タイミングを計る) 量る重さ・容積をはかる(体重を量る・容積を量る) 測る長さ・高さ・面積などをはかる(距離を測る・身長を測る) 図るくわだてる・工夫する(解決を図る・便宜を図る) 諮る意見を尋ねる(会議に諮る・委員会に諮る) 謀る計略を立てる・だます(暗殺を謀る)
見る・観る・診る みる
見る目で物を見る・確かめる(景色を見る・面倒を見る) 観る注意してながめる・鑑賞する(映画を観る・芝居を観る) 診る診察する(患者を診る・脈を診る)
分かれる・別れる わかれる
分かれる一つのものが二つ以上に分かれる(道が分かれる・意見が分かれる) 別れる人と離れる(友人と別れる・恋人と別れる)
補足ここで示した使い分けは、文化庁の使い分け例にしたがった標準的な目安です。実際の表記では、文脈やニュアンス、文章のスタイルによって、別の漢字が選ばれることもあります。複数の漢字のどちらでも問題ない場合や、長い間に使い方が変わってきている語もあるため、迷ったときは漢和辞典や国語辞典もあわせてご確認ください。
同訓異字に関する豆知識
なぜ同訓異字が生まれたのか
もともとの日本語(やまとことば)には、「あう」「とる」「みる」のように、ひとつの音で広い意味をまかなう言葉がたくさんありました。そこへ中国から漢字が伝わると、漢字の側ではより細かく意味が分かれていました。たとえば「ナク」も、人が涙を流す場合と鳥獣がなく場合とで、中国語では「泣」と「鳴」を区別していました。日本語にこれらの漢字をあてはめていく中で、同じ訓読みに対して複数の漢字が対応する状況が生まれ、書き分けによって意味のニュアンスを表せるようになりました。
同訓異字と同音異字の違い
同訓異字とよく似た言葉に同音異字があります。同音異字は音読みが同じで漢字が異なるもので、たとえば「カガク」を「科学」「化学」と書き分けるようなものを指します。両者を整理すると次のようになります。
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 同訓異字 | 訓読みが同じで漢字が異なる | 会う・合う・遭う 早い・速い |
| 同音異字 | 音読みが同じで漢字が異なる | 科学・化学 意志・意思 |
訓読み・音読みそのものについては、音読みと訓読みとはのページもあわせてご覧ください。
■ まとめ
同訓異字(異字同訓)は、同じ訓読みを持つ複数の漢字のことで、意味によって書き分けます。「会う・合う・遭う」「取る・撮る・採る・執る・捕る」など、日常的に書き分けに迷う場面が多くあります。
書き分けの公的な目安として、文化庁の『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』があり、133項目の使い分けが示されています。ただしこれは絶対のルールではなく、ひとつの参考であることを文化庁自身も明記しています。本ページの一覧も、迷ったときの目安としてご活用ください。
漢字の読み方全般については漢字の読み方とはのページに、ジャンル別の解説をご用意しています。
