「すすめる」の使い分け(進める・勧める・薦める)
同じ「すすめる」と読む漢字には、進める・勧める・薦めるの三つがあります。それぞれ意味によって書き分けられ、物事を前へ動かす「進める」、相手にするよう促す「勧める」、人や物をよいとして推挙する「薦める」と整理されます。「勧める」と「薦める」は特に混同しやすく、書き分けに迷いやすい代表的な「すすめる」です。このページでは、文化庁の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。
「すすめる」の書き分け ―結論
進める = 物事を前へ動かす・はかどらせる(話を進める・計画を進める)
勧める = するよう促す・働きかける(入会を勧める・転職を勧める)
薦める = 人・物をよいとして推挙する(本を薦める・候補者を薦める)
分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「進める」は前進・進行の「進」、「勧める」は勧誘・勧告の「勧」、「薦める」は推薦・自薦の「薦」。「物事をはかどらせる」なら「進」、「相手に行動を促す」なら「勧」、「人・物をよいと推挙する」なら「薦」と整理すると迷いにくくなります。
一覧で見る使い分け
三つの「すすめる」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。
| 漢字 | 意味の中心 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|
| 進める | 物事を前へ動かす・はかどらせる | 話を進める 計画を進める 時計を進める |
| 勧める | するよう促す・働きかける | 入会を勧める 転職を勧める お茶を勧める |
| 薦める | 人・物をよいとして推挙する | 本を薦める 候補者を薦める 店を薦める |
以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。
進めるすすめる
進めるは、「すすめる」の中でもっとも基本的で、用例の広い字です。物事を前へ動かす・前進させる・はかどらせるなど、空間的・時間的・抽象的な「前へ動かす」という動作全般に使われます。ほかの「すすめる」のどれに当てはまるか迷うときも、状況や物事を前に動かすイメージならまず「進める」を選ぶと多くの場面で通用します。
主な意味と用法
- 物事をはかどらせる・前へ動かす:話を進める/計画を進める/工事を進める/議事を進める
- 位置・順序を前に動かす:駒を進める/足を進める/兵を進める
- 時間・時計を前に動かす:時計を進める/時刻を進める
- 段階・地位を上げる:学年を進める/昇進させる意味で「ランクを進める」
- 食事・飲み物をはかどらせる:箸を進める/食欲が進む(進める形として)
例文
- 会議の時間が限られているので、議事を早めに進めてください。
- 雨が降る前に、外壁工事をできるかぎり進めた。
- サマータイムにあわせて、時計を一時間進めた。
勧めるすすめる
勧めるは、相手にある行動をするよう促す・働きかける場合に使う字です。漢字「勧」には「すすめる」「はげます」の意味があり、「勧誘」「勧告」「勧善」などの熟語からも、その性格がうかがえます。「入会を勧める」「転職を勧める」のように、相手の行動を引き出すための働きかけというのが基本の意味です。「薦める」と似ていますが、「勧める」は行動・行為を対象にするのが特徴です。
主な意味と用法
- 行動・行為をするよう促す:入会を勧める/転職を勧める/禁煙を勧める/受診を勧める
- 飲食を勧める・もてなす:お茶を勧める/座るよう勧める/一杯勧める
- 善いことをするよう促す:善行を勧める/学習を勧める
例文
- 医師から、毎日三十分ウォーキングするよう勧められた。
- 友人がうちに来るたびに、お茶と菓子を勧める。
- 上司に、早めに転職活動を始めるよう勧められた。
ご注意「勧める」は行動・行為を対象にするのが典型です。「入会を勧める」「禁煙を勧める」のように、「~することを勧める」の形になります。人や物そのものをよいとして推挙する場合(「この本を薦める」「彼を候補者として薦める」)は「薦める」を使います。
薦めるすすめる
薦めるは、人や物をよいものとして相手に推挙する・紹介する場合に使う字です。漢字「薦」には「すすめる」「推薦する」の意味があり、「推薦」「自薦」「他薦」などの熟語と直結しています。「この本を薦める」「彼を代表に薦める」のように、対象が人・物・店・作品など具体的な存在であり、それをよいとして推挙するというのが基本の意味です。
主な意味と用法
- 本・店・作品などをよいと紹介する:本を薦める/映画を薦める/レストランを薦める
- 人を役職・候補に推挙する:候補者を薦める/代表に薦める/後継者として薦める
- よいものとして相手に示す:この薬を薦める/その方法を薦める
例文
- 先生が読書感想文のテーマとして、この小説を薦めてくれた。
- 地元の人たちが、次の町長候補として彼を薦めた。
- 友人がおいしいと薦めた店に、早速行ってみた。
ご注意「薦める」は人・物・作品など具体的な存在を対象にするのが典型です。「推薦」「自薦・他薦」の「薦」と結びつけて覚えると判断しやすくなります。行動・行為を促す場合(「転職を勧める」「入会を勧める」)は「勧める」を使います。
迷いやすいケース
「すすめる」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。
「勧める」と「薦める」の使い分け
もっとも混同しやすいのが「勧める」と「薦める」です。大まかに言えば、行動・行為を促すなら「勧める」、人や物を推挙・紹介するなら「薦める」という区別になります。対象が「行動(すること)」か「物・人(存在)」かで判断するのが有効です。
| 場面 | 使う漢字 | 例 |
|---|---|---|
| 行動・行為をするよう促す | 勧める | 入会を勧める 禁煙を勧める 受診を勧める |
| 人・物・作品を推挙・紹介する | 薦める | 本を薦める 候補者を薦める 店を薦める |
「この本をすすめる」は「勧める」か「薦める」か
「本をすすめる」は「薦める」が基本です。本という具体的な作品をよいものとして推挙・紹介する場面なので、推薦の「薦」を使います。一方、「読書習慣をすすめる」のように行動(読むこと)を促す場合は「勧める」を使います。「本を薦める」と「読書を勧める」の差として整理できます。
| 表現 | 対象 | 使う漢字 |
|---|---|---|
| この本を薦める | 本(作品・物) | 推挙・紹介 → 薦める |
| 読書を勧める | 読書(行為) | 行動を促す → 勧める |
「お茶をすすめる」は「勧める」
飲み物や食べ物をもてなす場合は、「勧める」を使います。「お茶を勧める」「一杯勧める」「座るよう勧める」など、相手に行動を促すもてなしの場面です。「お茶」という物を指しているように見えるが、実際には「お茶を飲むこと(行為)を促す」意味なので「勧める」が適切です。
「彼を後任にすすめる」は「薦める」
人を役職・地位・後任などに推挙する場合は、「薦める」を使います。「彼を後任に薦める」「候補者として薦める」「次のリーダーに薦める」のように、人物という具体的な存在をよいとして推挙する意味です。「推薦」「他薦」の熟語からもこの使い方が伝わります。
「計画をすすめる」は「進める」
作業・計画・議事・交渉など、物事の進行を前に動かす場合は、「進める」を使います。「計画を進める」「議論を進める」「交渉を進める」など、いずれも物事が前へ動く・はかどるイメージです。「勧める」「薦める」とは意味が明確に異なりますが、「議案をすすめる」のような場面で「勧」「薦」を誤って選ぶことがあるため注意が必要です。
「転職をすすめる」は「勧める」か「薦める」か
「転職をすすめる」は「勧める」が適切です。転職という行為・行動を促しているからです。一方、「転職先の会社を薦める」なら転職先という具体的な物(会社)を推挙しているので「薦める」になります。「転職という行為」か「転職先という物」かで使い分けが決まります。
| 表現 | 対象 | 使う漢字 |
|---|---|---|
| 転職を勧める | 転職(行為) | 行動を促す → 勧める |
| 転職先を薦める | 転職先(会社・物) | 推挙・紹介 → 薦める |
「おすすめ」の表記について
店舗のメニューやウェブサイトでよく見かける「おすすめ」は、「ぜひ試してほしい(行動の喚起=勧める)」と「優れているから推したい(価値の推薦=薦める)」の両方のニュアンスを含んでいることが多い表現です。そのため、どちらかの漢字に限定せず、ひらがなで「おすすめ」、あるいはカタカナで「オススメ」と表記するのが、柔らかい印象も与えられるため広く一般的です。
対応する動詞「すすむ(進む)」との関係
「進める」は自動詞「進む」に対応する他動詞です。「話が進む」に対して「話を進める」、「計画が進む」に対して「計画を進める」という対応があります。「勧める」「薦める」にはこのような自動詞対応はなく、はじめから他動詞として使われます。この点も「進める」と他の二つを区別する確実な手がかりになります。
補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「すすめる」は、まずそれぞれの字を含む熟語(前進・進行/勧誘・勧告/推薦・自薦)を思い浮かべ、「物事を前へ動かす=進」「行動を促す=勧」「人・物を推挙する=薦」と対応させると整理しやすくなります。「勧」と「薦」については、対象が「行為(すること)」なら「勧」、「人・物(存在)」なら「薦」という区別も有効です。また、境界が曖昧な場合はひらがな表記を活用するのも有効な手段です。
■ まとめ
「すすめる」と読む漢字には、進める・勧める・薦めるの三つがあります。進めるは物事・計画・議事などを前へ動かす字(前進・進行)、勧めるは相手にある行動をするよう促す字(勧誘・勧告)、薦めるは人や物をよいとして推挙・紹介する字(推薦・自薦)です。
「勧める」と「薦める」の区別は、対象が「行為(すること)」なら「勧める」、「人・物(存在)」なら「薦める」と覚えると書き分けに迷う場面が大きく減ります。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。
