「たつ・たてる」の使い分け(立つ・建つ)
同じ「たつ」「たてる」と読む漢字には、立つ・建つ(立てる・建てる)の二つがあります。それぞれ意味によって書き分けられ、縦の状態になる・位置を占める・現象や状態が生じるなど広い場面で使う「立つ・立てる」、家やビルなどの建物を造り上げる場面の「建つ・建てる」と整理されます。「建つ・建てる」は建物を造るという限られた意味を表し、それ以外の場面はすべて「立つ・立てる」で書くのが基本です。対応する自動詞「たつ」と他動詞「たてる」は、同じ意味の区別で書き分けます。このページでは、文化庁の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。
「たつ・たてる」の書き分け ―結論
立つ/立てる = 縦の状態になる・位置を占める・現象や状態が生じる(人が立つ・席を立つ・煙が立つ・腹が立つ・うわさが立つ/旗を立てる・計画を立てる・音を立てる)
建つ/建てる = 建物などを造る(家が建つ・ビルが建つ/家を建てる・ビルを建てる)
分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「立つ」は起立・直立・成立・立場の「立」、「建つ」は建築・建設・建立の「建」。「縦になる・位置を占める・現象が生じる」なら「立」、「建物を造る」なら「建」と整理すると迷いにくくなります。なお「立」のほうが意味の範囲がはるかに広く、迷ったときはまず「立」を選んでおけば多くの場面で通用します。「建」が使えるのは、建物を造り上げる場面に限られます。
一覧で見る使い分け
二つの「たつ・たてる」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。
| 漢字 | 意味の中心 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|
| 立つ 立てる |
縦の状態になる・位置を占める・現象や状態が生じる | 人が立つ 席を立つ 煙が立つ 腹が立つ 計画を立てる |
| 建つ 建てる |
建物などを造る | 家が建つ ビルが建つ 家を建てる 校舎を建てる |
以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。
立つたつ / 立てるたてる
立つ・立てるは、「たつ・たてる」の中でもっとも基本的で、用例の範囲がきわめて広い字です。人や物が縦の姿勢になる・ある場所や位置を占める・ある現象や状態が新しく生じるなど、具体的な動作から抽象的な事柄まで広く使われます。「建つ」に当てはまるか迷うときも、建物を造る意味でなければ「立つ」を選んでおけば多くの場面で通用します。漢字「立」は「たつ」「たてる」「リツ」「リュウ」と読み、「起立」「直立」「成立」「立場」など多くの熟語に用いられる基本的な漢字です。
主な意味と用法(立つ)
- 縦の姿勢になる・起立する:人が立つ/まっすぐ立つ/壁ぎわに立つ
- ある位置・場所を占める:教壇に立つ/先頭に立つ/頂点に立つ/優位に立つ
- その場を離れる:席を立つ/旅立つ/巣立つ
- 現象・状態が生じる:煙が立つ/波が立つ/うわさが立つ/湯気が立つ
- 感情が起こる:腹が立つ/鳥肌が立つ/気が立つ
- 物事が成り立つ・通用する:顔が立つ/面目が立つ/生計が立つ/道理が立つ/見通しが立つ
- 役立つ・優れる:役に立つ/目立つ/腕が立つ
主な意味と用法(立てる)
- 縦にする・直立させる:旗を立てる/柱を立てる/看板を立てる/襟を立てる
- 物事を新たに設ける・打ち出す:計画を立てる/予定を立てる/方針を立てる/目標を立てる/仮説を立てる
- ある立場・役目に据える:候補者を立てる/代表を立てる/使者を立てる
- 音や噂などを生じさせる:音を立てる/物音を立てる/うわさを立てる/波風を立てる
- 体面・面目を保たせる:顔を立てる/面目を立てる/義理を立てる
- 感情を激しくする:腹を立てる/目くじらを立てる
- 生計を成り立たせる:生計を立てる/暮らしを立てる/身を立てる
例文
- 長く座っていたので、伸びをしながらゆっくりと立った。
- 来年の旅行に向けて、家族で綿密な計画を立てた。
- 不用意な発言で同僚の腹を立ててしまった。
建つたつ / 建てるたてる
建つ・建てるは、家屋やビルなどの建物を造り上げる場合に使う字です。漢字「建」には「たてる」「おこす」の意味があり、「建築」「建設」「建立」「再建」などの熟語からも、その性格がうかがえます。「立つ」とは異なり、建物を新たに造り上げるという行為に意味が限られた字で、それ以外の場面では用いません。
主な意味と用法(建つ)
- 建物が造られて存在する:家が建つ/ビルが建つ/マンションが建つ/新居が建つ
- 建物が並ぶ・出来上がる:駅前に商業施設が建つ/空き地に倉庫が建つ
主な意味と用法(建てる)
- 建物を造る:家を建てる/ビルを建てる/別荘を建てる/学校を建てる
- 建物を造り直す:古い家を建て直す/店舗を建て替える
例文
- 長年の念願がかない、郊外にマイホームを建てた。
- 更地だった土地に、いつのまにか大きなマンションが建っていた。
- 古くなった校舎を建て替える計画が進んでいる。
ご注意「建つ・建てる」は建物を造る場面に限って使う字です。「席を建つ」「腹を建てる」「計画を建てる」のように、建造の意味がない場面では「建」は用いません。それらはいずれも「立つ・立てる」を使います。「建築」「建設」の熟語が当てはまるかどうかを確かめると判断しやすくなります。
迷いやすいケース
「たつ・たてる」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。
「家をたてる」は「建てる」
「家をたてる」「新居をたてる」「ビルをたてる」など、建物を造り上げる場面は「建てる」を使います。「建築」「建設」の「建」が対応します。同様に自動詞では「家が建つ」「ビルが建つ」と書きます。一方、「テントをたてる」「ついたてをたてる」のように、組み立て式の簡易な構造物の場合は「立てる」と書くのが一般的です。テントや屏風は建築物というより、縦の姿勢に据える物として扱われるためです。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 建てる | 建物を造り上げる | 家を建てる 校舎を建てる マンションを建てる |
| 立てる | 縦の姿勢に据える | テントを立てる ついたてを立てる 看板を立てる |
「銅像・石碑・記念碑がたつ」は表記に揺れがある
「銅像がたつ」「石碑がたつ」「記念碑がたつ」のように、建物ではないが地面に縦に据えられた物については、書き手の捉え方によって「立つ」と「建つ」のどちらも使われ、表記に揺れがあります。新聞表記や辞書類でも見解が分かれる場面です。一般には、姿の存在に焦点を当てるなら「立つ」、造り上げる行為やモニュメントとしての性格に焦点を当てるなら「建つ」と整理すると選びやすくなります。「電柱が立つ」「標識が立つ」「のぼりが立つ」など、明らかに造作物でないものは「立つ」と書きます。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 立つ | 縦の姿勢で据えられた姿に焦点 | 電柱が立つ 標識が立つ 銅像が立つ |
| 建つ | 造り上げる行為・モニュメント性に焦点 | 記念碑が建つ 銅像が建つ 五重塔が建つ |
「計画をたてる」は「立てる」
「計画をたてる」「予定をたてる」「方針をたてる」「目標をたてる」など、物事を新たに設けて打ち出す場面は「立てる」を使います。「成立」「立案」の「立」と結びつき、抽象的な物事を新たに設ける意味で「立」が選ばれます。「建てる」と書くのは誤りで、計画や予定そのものは建物ではないため「建」は用いません。
「腹がたつ」「役にたつ」は「立つ」
「腹がたつ」「役にたつ」「目だつ」「うわさがたつ」「煙がたつ」「波がたつ」など、感情・現象・状態が生じる場面、また役立つ・優れる意味の場面は、すべて「立つ」を使います。これらは建造の意味とは無関係で、「建つ」と書くのは誤りです。
「顔をたてる」「面目をたてる」は「立てる」
「顔をたてる」「面目をたてる」「義理をたてる」など、体面・立場・道理を保たせる場面は「立てる」を使います。「立場」「成立」の「立」と結びつき、社会的な体面・関係を保つ意味で「立」が選ばれます。自動詞も同様に「顔が立つ」「面目が立つ」と書きます。
「建て直す」と「立て直す」
「建て直す」は、建物をもう一度建築する意味です。「古い家を建て直す」「校舎を建て直す」のように使います。一方、「立て直す」は、悪くなった状態を元に戻す・改善する意味です。「経営を立て直す」「生活を立て直す」「態勢を立て直す」のように使います。同音でも対象が建物か抽象的な事柄かで字が異なります。
「建て替える」と「立て替える」
「建て替える」は、古い建物を壊して新しく建てる意味です。「家を建て替える」「店舗を建て替える」のように使います。一方、「立て替える」は、代金などを一時的に代わりに払う意味です。「交通費を立て替える」「会費を立て替える」のように書き分けます。
「本音と建前」は「建前」
「本音とたてまえ」の「たてまえ」は、一般に「建前」と書きます。もとは建築に関わる語ですが、現在では「表向きの方針・原則」という意味で広く使われます。「立前」とは通常書きません。
対応する自動詞「たつ」と他動詞「たてる」
「立つ・建つ」は自動詞、「立てる・建てる」は他動詞で、対応する自動詞と他動詞は同じ意味の区別で書き分けます。
| 意味 | 自動詞 | 他動詞 | 例(他動詞) |
|---|---|---|---|
| 縦の状態になる・位置を占める・現象が生じる | 立つ | 立てる | 旗を立てる 計画を立てる 音を立てる |
| 建物などを造る | 建つ | 建てる | 家を建てる ビルを建てる 校舎を建てる |
補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「立つ」は意味の範囲がきわめて広く、縦になる・位置を占める・現象が生じるなどさまざまな場面で使えます。「建つ」は建物を造り上げる場面に限られます。塔・記念碑・銅像などは、建造物として捉えるか姿の存在として捉えるかで書き手の判断が分かれる場合もありますが、迷ったときは関連熟語(起立・成立・立場/建築・建設・建立)と結びつけて考えると、ほとんどの場面で選びやすくなります。
参考「たつ」と読む漢字には、ほかにも断つ(つながりや関係を切る・酒を断つ)・絶つ(続いていたものを終わらせる・連絡を絶つ・命を絶つ)・裁つ(布や紙を寸法に合わせて切る・生地を裁つ)・経つ(時間が過ぎる・三年が経つ)などがあります。これらは「立つ・建つ」とは意味が異なる別の言葉で、混同しないよう注意が必要です。
■ まとめ
「たつ・たてる」と読む漢字には、立つ・建つ(立てる・建てる)の二つがあります。もっとも一般的なのは「立つ・立てる」で、縦の状態になる・位置を占める・現象や状態が生じるなど、きわめて広い場面で使われます。「建つ・建てる」は建物を造り上げる場面に限った字で、使える場面ははっきりと限られます。
迷ったときは「建築・建設」の意味に当てはまるかを確かめ、当てはまらなければ「立つ・立てる」を選ぶのが基本です。関連熟語(起立・成立・立場/建築・建設・建立)と結びつけて考えると、ほとんどの場面で正しく書き分けられます。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。
