「おりる・おろす」の使い分け(降りる・下りる・降ろす・下ろす・卸す)
同じ「おりる」「おろす」と読む漢字には、降りる(降ろす)・下りる(下ろす)・卸すの三つがあります。それぞれ意味によって書き分けられ、乗り物や高い所から下方へ移る「降りる・降ろす」、上から下へ位置を移す・許可などが出る・貯金などを引き出す「下りる・下ろす」、問屋が小売店に商品を売り渡す「卸す」と整理されます。特に「降りる」と「下りる」は意味の重なる範囲があり、文脈によってどちらでも書ける場面もあります。なお自動詞「おりる」に対応する他動詞は「おろす」で、「降りる⇔降ろす」「下りる⇔下ろす」と対をなします(「卸す」は他動詞のみで、「おりる」に対応する形はありません)。このページでは、文化庁の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。
「おりる・おろす」の書き分け ―結論
降りる/降ろす = 乗り物から外へ出る・高い所から下方へ移る・地位や役目から退く(電車を降りる・霜が降りる・主役を降りる/乗客を降ろす・主役を降ろす)
下りる/下ろす = 上から下へ移る・許可や命令が出る・貯金などを引き出す・幕や錠などが下がる(階段を下りる・許可が下りる・幕が下りる/預金を下ろす・棚から荷物を下ろす・腰を下ろす)
卸す = 問屋が小売店に商品を売り渡す(商品を卸す・小売店に卸す)
分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「降りる」は降車・乗降・降板の「降」、「下りる」は下降・下車・下付の「下」、「卸す」は卸売・卸値・棚卸しの「卸」。「乗り物から外へ出る・高所から下方へ移る・役を退く」なら「降」、「上から下へ・許可が出る・引き出す」なら「下」、「問屋から小売店へ売り渡す」なら「卸」と整理すると迷いにくくなります。なお「降りる」と「下りる」は意味の重なりがあり、どちらでも書ける場面があることもあわせて押さえておくと安心です。
一覧で見る使い分け
三つの「おりる・おろす」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。
| 漢字 | 意味の中心 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|
| 降りる 降ろす |
乗り物から外へ出る・高い所から下方へ移る・地位や役目から退く | 電車を降りる 飛び降りる 霜が降りる 主役を降りる 乗客を降ろす |
| 下りる 下ろす |
上から下へ移る・許可や命令が出る・貯金などを引き出す | 階段を下りる 許可が下りる 幕が下りる 預金を下ろす 棚から荷物を下ろす |
| 卸す | 問屋が小売店に商品を売り渡す | 商品を卸す 小売店に卸す 卸値 棚卸し |
以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。
降りるおりる / 降ろすおろす
降りる・降ろすは、乗り物から外へ出る・高い所から下方へ移る・役割や地位から退く場合に使う字です。漢字「降」には「おりる」「おろす」「ふる」「くだる」の意味があり、「乗降」「降車」「降下」「降雨」「降板」「降格」などの熟語からも、その性格がうかがえます。乗り物から出る、空から地上へ落ちる・移る、役・地位・出場から退くという場面では「降」を使うのが基本です。
主な意味と用法(降りる)
- 乗り物から外へ出る:電車を降りる/バスを降りる/タクシーを降りる/飛行機を降りる
- 高い所から下方へ移る:飛び降りる/舞い降りる/屋根から降りる(※「下りる」とも書く)
- 空から地上へ落ちる・自然現象として下る:霜が降りる/露が降りる/月面に降り立つ
- 地位・役・出場などから退く:主役を降りる/監督を降りる/勝負を降りる/プロジェクトから降りる
主な意味と用法(降ろす)
- 乗り物に乗っている人を外に出す:乗客を降ろす/次の駅で降ろす/車から降ろす
- 役・地位・出場から退かせる:主役を降ろす/監督を降ろす/投手を降ろす
例文
- 次の駅で電車を降りると、改札の前で友人が待っていた。
- 夜が明けるころには、庭の草に白く霜が降りていた。
- 体調を理由に、彼は予定していた舞台の主役を降りることになった。
下りるおりる / 下ろすおろす
下りる・下ろすは、上から下へ位置を移す場面を中心に、許可・命令などが上位から出される、貯金を引き出す、幕や錠などが下がる、刃物などで切り落とす、など幅広い意味で用いられる字です。漢字「下」には「した」「しも」「もと」「おりる」「おろす」「くだる」など多くの訓があり、「下山」「下車」「下降」「下付」「下命」などの熟語からも、その意味の広さがうかがえます。「降りる」と意味が重なる場面もありますが、抽象的な意味や慣用的な用法では「下」を選びます。
主な意味と用法(下りる)
- 上から下へ移動する:階段を下りる/山を下りる/坂を下りる(※「降りる」とも書く)
- 許可・命令などが上位から出される:許可が下りる/認可が下りる/指令が下りる/補助金が下りる/年金が下りる
- 幕・シャッターなどが上から下へ閉まる:幕が下りる/シャッターが下りる/遮断機が下りる
- 錠などが掛かる:錠が下りる/鍵が下りる
- 負担・緊張などが軽くなる:肩の荷が下りる/胸のつかえが下りる
主な意味と用法(下ろす)
- 高い所にあるものを下に移す:棚から本を下ろす/屋根の雪を下ろす/荷物を下ろす
- 体の一部を下げる:腰を下ろす/肩から下ろす
- 貯金・預金を引き出す:預金を下ろす/口座から下ろす/貯金を下ろす
- 幕・シャッターなどを下げて閉める:幕を下ろす/シャッターを下ろす/錠を下ろす
- 刃物などで切り落とす・切り分ける:枝を下ろす/髪を下ろす(出家する)/魚を三枚に下ろす
- 新しく書く・新たに作る:書き下ろしの小説/描き下ろしのイラスト
例文
- 長く待たされた末に、ようやく工事の許可が下りた。
- 急ぎの支払いのために、銀行で預金を下ろした。
- 終演とともに、舞台の幕が静かに下りた。
ご注意「下りる・下ろす」は「降りる・降ろす」と意味の重なる場面があります。「階段をおりる」「山をおりる」のように、人が自分の足で高所から下方へ移る場面は「下」「降」のどちらでも書けます。一方、「許可が下りる」「預金を下ろす」「幕が下りる」のように、移動以外の抽象的・慣用的な用法は「下」が使われます。
卸すおろす
卸すは、問屋が小売店に商品を売り渡す場合に使う字です。漢字「卸」には「おろす」の訓があり、「卸売」「卸値」「卸問屋」「棚卸し」などの熟語からも、その性格がうかがえます。流通の段階を表す「卸し」は、もっぱらこの字を使います。なお「卸」は自動詞の用法を持たないため、対応する「おりる」の形はありません。
主な意味と用法(卸す)
- 問屋が小売店に商品を売り渡す:商品を卸す/小売店に卸す/飲食店に食材を卸す/定価の六掛けで卸す
- 流通・商取引を示す語として使う:卸値/卸売り/卸問屋/卸業者/棚卸し
例文
- その問屋は、地元の野菜を全国のスーパーに卸している。
- 新商品は、まず関東の小売店に卸す予定だ。
- 卸値が上がったため、販売価格の見直しが必要になった。
ご注意「卸す」は商業上の取引(卸売り)に限った字です。「電車を卸す」「階段を卸す」「荷物を卸す」「お金を卸す」のようには書きません。それらはそれぞれ「降りる」「下りる」「下ろす」を使います。「卸」を選んでよいのは、問屋・卸売りの場面に限られると覚えておくと安心です。
迷いやすいケース
「おりる・おろす」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。
「乗り物をおりる」は「降りる」
「電車をおりる」「バスをおりる」「タクシーをおりる」「飛行機をおりる」など、乗り物から外へ出る場面は「降りる」を使います。「降車」「乗降」の「降」と結びついた用法で、対応する他動詞「乗客を降ろす」「次の駅で降ろす」も同じく「降」を使います。
「階段をおりる」「山をおりる」は「下りる」か「降りる」か
「階段をおりる」「山をおりる」「坂をおりる」など、人が自分の足で高い所から低い所へ移動する場面は、「下りる」「降りる」のどちらでも書けるとされています。一般には、地続きのところを下っていくイメージでは「下りる」、高所から飛び降りるようなイメージでは「降りる」が選ばれやすい傾向があります。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 階段を下りる | 上から下への位置の移動 | 階段を下りる 山を下りる 坂を下りる |
| 階段を降りる | 高所から下方へ「おりる」動作を強調する | 高い所から飛び降りる 屋根から降りる |
「役・地位からおりる」は「降りる」
「主役をおりる」「監督をおりる」「マウンドをおりる」「プロジェクトからおりる」など、担っていた役・地位・出場などから退く場面は「降りる」を使います。「降板」「降格」の「降」と結びついた用法で、対応する他動詞「主役を降ろす」「投手を降ろす」も同じく「降」を使います。
「許可がおりる」は「下りる」
「許可がおりる」「認可がおりる」「指令がおりる」「補助金がおりる」「年金がおりる」など、上位の機関や立場から許可・命令・金銭などが与えられる場面は「下りる」を使います。「下付」「下命」の「下」と結びついた用法です。
「貯金をおろす」は「下ろす」
「貯金をおろす」「預金をおろす」「口座からおろす」など、口座からお金を引き出す場面は「下ろす」を使います。「降ろす」「卸す」とは書きません。なお銀行で渡される伝票では「払戻し」と書かれることが多く、書き言葉では「引き出す」「払い戻す」も同じ意味で使われます。
「幕がおりる」「シャッターがおりる」は「下りる」
「幕がおりる」「シャッターがおりる」「遮断機がおりる」など、幕・覆い・遮るものなどが上から下へ動いて閉まる場面は「下りる」を使います。対応する他動詞「幕を下ろす」「シャッターを下ろす」も同じく「下」です。「事件の幕が下りる」のように比喩的に使う場面も同じ表記です。
「霜がおりる」「露がおりる」は「降りる」
「霜がおりる」「露がおりる」など、霜や露が地面に生じる場面は、文化庁の使い分け例で「霜が降りる」が示されています。「降雨」「降雪」のように天から下る意味とつながる用法で、霜・露が空から地表に至る感覚と結びついた表記です。
「荷物をおろす」は「下ろす」、「乗客をおろす」は「降ろす」
「棚から荷物をおろす」「肩の荷をおろす」「リュックをおろす」など、物を高い位置から下へ移す場面は「下ろす」を使います。一方、「乗客をおろす」「次の駅でおろす」のように、乗り物から人を外へ出す場面は「降ろす」を使います。船やトラックから積み荷を運び出す「荷降ろし」は「降」を用いることもあり、文脈によって表記が分かれる場合があります。
「魚をおろす」「大根をおろす」は「下ろす」または仮名書き
「魚を三枚におろす」のように刃物で切り分ける場面、「大根をおろす」「しょうがをおろす」のようにおろし金ですりつぶす場面は「下ろす」と書きます。料理用語としては「大根おろし」「魚を三枚におろす」のように仮名で書くことも一般的です。なお「卸す」は商取引に限って用いる字で、これらの場面には使いません。
「商品をおろす」は「卸す」
「商品をおろす」「小売店におろす」「食材を飲食店におろす」など、問屋が小売店に商品を売り渡す場面は「卸す」を使います。「卸売」「卸値」「卸問屋」と結びついた用法で、「降ろす」「下ろす」とは書きません。流通の段階を指す語は、もっぱらこの字を用います。
対応する自動詞「おりる」と他動詞「おろす」
「降りる・下りる」は自動詞、「降ろす・下ろす」は他動詞で、対応する自動詞と他動詞は同じ意味の区別で書き分けます。「卸す」は他動詞のみで、対応する自動詞はありません。
| 意味 | 自動詞 | 他動詞 | 例(他動詞) |
|---|---|---|---|
| 乗り物・高所から下へ移る/役を退く | 降りる | 降ろす | 乗客を降ろす 主役を降ろす 投手を降ろす |
| 上から下へ移る/許可・命令などが出る/引き出す | 下りる | 下ろす | 荷物を下ろす 預金を下ろす 幕を下ろす |
| 問屋が小売店に売り渡す | ― | 卸す | 商品を卸す 小売店に卸す 食材を卸す |
補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「降りる」と「下りる」は、人や物が高い所から低い所へ移る場面で意味が重なり、文脈によってはどちらでも書けることがあります。一方、「許可が下りる」「預金を下ろす」「幕が下りる」のような抽象的・慣用的な用法は「下」、「乗り物から降りる」「霜が降りる」「役を降りる」のような乗降・自然現象・退場の用法は「降」、「商品を卸す」のような商取引の用法は「卸」と、字ごとに得意な領域があります。迷ったときは、関連する熟語(乗降・降車・降板/下山・下車・下付/卸売・卸値・棚卸し)を思い浮かべると、選びやすくなります。
■ まとめ
「おりる・おろす」と読む漢字には、降りる・下りる・卸すの三つがあります。「降りる・降ろす」は乗り物から外へ出る・高い所から下方へ移る・役や地位から退く場面に使う字、「下りる・下ろす」は上から下へ位置を移す場面に加え、許可が出る・貯金を引き出す・幕や錠が下がるなど幅広い意味を持つ字、「卸す」は問屋が小売店に商品を売り渡す商取引の場面に使う字です。
特に「降りる」と「下りる」は意味の重なる場面があり、「階段をおりる」「山をおりる」のようにどちらでも書ける用法もあります。迷ったときは関連熟語(乗降・降車・降板/下山・下車・下付/卸売・卸値)と結びつけて考えると、ほとんどの場面で正しく書き分けられます。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。
