「おこす・おこる」の使い分け(起こす・興す)

同訓異字の全体や他の書き分けは、同訓異字(異字同訓)とはのページをご覧ください。

同じ「おこす」「おこる」と読む漢字には、起こす・興す(起こる・興る)の二つがあります。それぞれ意味によって書き分けられ、立たせる・目を覚まさせる・新たに生じさせる場面の「起こす・起こる」、衰えたものを盛んにする・新たに盛んに立ち上げる場面の「興す・興る」と整理されます。意味の範囲が大きく異なり、「起こす」のほうが圧倒的に広く、日常的な多くの場面で使われます。「興す」は「国・産業・事業」など改まった対象に限られます。このページでは、文化庁「異字同訓」の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。

「おこす・おこる」の書き分け ―結論

結論

起こす/起こる = 立てる・目を覚まさせる・新たに生じさせる・発生する(体を起こす・子供を起こす・訴訟を起こす・やる気を起こす/事件が起こる・地震が起こる)

興す/興る = 衰えたものを盛んにする・新たに事業や国などを盛んに立ち上げる(国を興す・産業を興す・家を興す/産業が興る・国が興る)

分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「起こす」は起立・起床・起源の「起」、「興す」は興隆・復興・振興の「興」です。「立てる・生じさせる」なら「起」、「盛んにする・盛んに立ち上げる」なら「興」と整理すると迷いにくくなります。なお「起」のほうが意味の範囲が広く、「興」の場面(事業・会社など)でも「起」で書けることが多い一方、日常的な場面(人を起こす、事件を起こす)で「興」は使えません。

一覧で見る使い分け

二つの「おこす・おこる」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。

漢字 意味の中心 典型的な使い方
起こす
起こる
立てる・目を覚まさせる・新たに生じさせる・発生する 体を起こす
子供を起こす
訴訟を起こす
事件が起こる
地震が起こる
興す
興る
衰えたものを盛んにする・新たに盛んに立ち上げる 国を興す
産業を興す
家を興す
産業が興る

以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。

起こすおこす / 起こるおこる

起こす・起こるは、「おこす・おこる」の中でもっとも基本的で、用例の範囲がきわめて広い字です。横になっているものを立てる・寝ている人を目覚めさせる・新たな物事や現象を生じさせる・発生するなど、具体的な動作から抽象的な事象まで広く使われます。「起こす」「興す」のどちらに当てはまるか迷うときも、「盛んにする」の意味が強くない限り、まず「起こす」を選んでおけば多くの場面で通用します。

主な意味と用法(起こす)

  • 横たわっているものを立てる:体を起こす/倒れた木を起こす/転んだ子を起こす
  • 寝ている人を目覚めさせる:子供を起こす/朝早くに起こす/電話で起こす
  • 新たに始める・生じさせる:訴訟を起こす/行動を起こす/会社を起こす(※「興す」とも書く)
  • 事件・問題などを引き起こす:事件を起こす/騒ぎを起こす/事故を起こす
  • 感情・意欲などを生じさせる:やる気を起こす/怒りを起こす/好奇心を起こす
  • 病気・症状などを生じさせる:発作を起こす/腹痛を起こす/めまいを起こす
  • 文字に書きおこす:原稿を起こす/音声を文字に起こす

主な意味と用法(起こる)

  • 事件・現象などが発生する:事件が起こる/地震が起こる/問題が起こる
  • 感情・状態が生じる:疑問が起こる/不安が起こる/拍手が起こる
  • 動きや活動が始まる:風が起こる/波が起こる/騒ぎが起こる

例文

  • 毎朝六時に、母が私を優しく起こしてくれた。
  • 真夜中に大きな地震が起こり、すぐに目が覚めた。
  • 会場のあちこちから、感心したような声が起こった。
  • 小さな油断が、大きな事故を起こすことがある。

興すおこす / 興るおこる

興す・興るは、一度衰えたものを再び盛んにする・新たに事業や国などを盛んに立ち上げる場合に使う字です。漢字「興」には「おこす」「おこる」「さかんになる」の意味があり、「興隆」「復興」「振興」「中興」などの熟語からも、その性格がうかがえます。「起こす」とは異なり、勢いを盛んにする・大きく立ち上げるという意味が核心で、改まった文脈や、国・産業・家業などスケールの大きい対象に用いられます。

主な意味と用法(興す)

  • 衰えたものを再び盛んにする:傾いた家を興す/没落した家を興す/衰えた村を興す
  • 新たに事業・国などを盛んに立ち上げる:国を興す/会社を興す/産業を興す/一家を興す
  • 学問・文化などを盛んにする:学問を興す/文化を興す

主な意味と用法(興る)

  • 衰えていたものが盛んになる:産業が興る/文化が興る/学問が興る
  • 新たな国・勢力などが盛んに立ち上がる:新たな国が興る/新しい王朝が興る

例文

  • 祖父は戦後の焼け跡から、小さな町工場を興した。
  • 明治のころ、この地方では製糸業が大きく興った。
  • 傾いた家業を、若き当主が見事に興してみせた。

ご注意「興す・興る」は勢いを盛んにする・大きく立ち上げるという意味が核心です。「子供を興す」「事件が興る」「地震が興る」のように、目覚めさせる場面や、否定的・日常的な事象の発生には用いません。それらはいずれも「起こす・起こる」を使います。「興隆」「振興」「復興」などの熟語が当てはまるかどうかを確かめると判断しやすくなります。

迷いやすいケース

「おこす・おこる」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。

「会社をおこす」は「起こす」か「興す」か

「会社をおこす」は「起こす」「興す」のどちらでも書ける代表的な場面です。文化庁の使い分け例でも、「会社を起こす/会社を興す」の両表記が示されています。ただし、意味の重点が異なります。「会社を起こす」は新たに事業を始める・立ち上げるというニュアンス、「会社を興す」は事業を盛んに立ち上げる・勢いをもって始めるというニュアンスです。日常的・中立的な文脈では「起こす」、改まった文章や、大きく盛んに立ち上げる意味を強めたい場合は「興す」が選ばれる傾向にあります。

表記 意味の重点 ニュアンス
会社を起こす 新たに会社を始める・立ち上げる 日常的・中立的な文脈で広く用いられる書き方
会社を興す 会社を盛んに立ち上げる・勢いをもって始める 改まった文章や、勢いを強調する場合の書き方

「事業をおこす」は「起こす」か「興す」か

「事業をおこす」も、「起こす」「興す」のどちらでも書ける場面です。「事業を起こす」は新規に事業を始める意味、「事業を興す」は事業を盛んに立ち上げる意味で、ニュアンスが異なります。新聞・公用文では「起こす」が選ばれることが多く、伝統的な文章や歴史的な記述では「興す」も広く用いられます。同様に「産業をおこす」もどちらでも書けますが、「振興」「興業」の「興」と結びつき、改まった文脈では「産業を興す」が用いられることが多くなります。

「国をおこす」は「興す」

「国をおこす」は「興す」を使うのが標準です。「興国」「中興」「復興」の「興」と結びついており、国家を盛んに立ち上げる・再興する意味からも「興」が適切です。歴史的な記述や改まった文章では「国を興す」が定着しています。同様に「王朝が興る」「文化が興る」など、国家・文化・勢力が盛んに立ち上がる場面でも「興る」が用いられます。

「町おこし」「村おこし」の表記

衰退している地域を活性化させる「町おこし」「村おこし」は、勢いを盛んにする意味に当たるため、漢字で書くなら「町興し」「村興し」となります。ただし実際には、堅苦しい印象を避けたり、新しいムーブメントを発生させる意味を含ませたりするために、「町おこし」「村おこし」と平仮名で表記されるのがもっとも一般的です。新聞・公用文や自治体の文章でも、平仮名表記が標準として扱われます。

「人をおこす」「体をおこす」は「起こす」

「人をおこす」「子供をおこす」「体をおこす」「倒れた木をおこす」など、目を覚まさせる・横たわっているものを立てる場面は「起こす」を使います。「起立」「起床」の「起」と結びついた基本的な意味で、ここで「興す」を使うことはありません。なお、自分自身が目覚める場合は自動詞「起きる」を使い、「朝早く起きる」のように表します。

「事件・問題をおこす」は「起こす」

「事件をおこす」「問題をおこす」「事故をおこす」「騒ぎをおこす」など、出来事を引き起こす・発生させる場面は「起こす」を使います。「興す」には「盛んにする」というプラスの意味合いが強く、否定的な事象の発生には用いません。自動詞も同様に「事件が起こる」「問題が起こる」「地震が起こる」と書きます。

「やる気をおこす」「行動をおこす」は「起こす」

「やる気をおこす」「行動をおこす」「興味をおこす」など、感情・意欲・動作などを生じさせる場面は「起こす」を使います。文化庁の使い分け例でも「やる気を起こす」が示されています。「興味」という語に「興」の字が含まれるため紛らわしいですが、動詞「おこす」としては「起こす」が標準です。

「火をおこす」は「起こす」

「火をおこす」「炭をおこす」など、火を燃え立たせる場面は「起こす」を使うのが標準です。「火を熾す」と書かれることもありますが、「熾」は常用漢字ではないため、新聞・公用文では「起こす」が用いられます。改まった文学的表現や専門的文脈では「熾す」も見られますが、一般的には「起こす」が無難です。

「腹を立てる」の「おこる」は「怒る」

「先生におこられる」「弟がおこる」のように、腹を立てる・叱る意味の「おこる」は「怒る」を使います。「事件が起こる」「国が興る」とは別の語で、このページで扱う「起こる」「興る」とは意味も漢字も異なります。同じ読みでも書き分けが必要です。

対応する自動詞「おこる」も同じ書き分け

他動詞「おこす」と対応する自動詞「おこる」も、まったく同じ意味の区別で書き分けます。

意味 他動詞 自動詞 例(自動詞)
立てる・新たに生じさせる・発生する 起こす 起こる 事件が起こる
地震が起こる
拍手が起こる
衰えたものが盛んになる・盛んに立ち上がる 興す 興る 産業が興る
新たな国が興る

活用と送り仮名

「起こす」「興す」はどちらもサ行五段活用、「起こる」「興る」はどちらもラ行五段活用です。漢字が違っても活用のしかたは同じです。

語 未然形 連用形 終止形 仮定形 命令形
起こす 起こさない 起こします
起こした
起こす 起こせば 起こせ
興す 興さない 興します
興した
興す 興せば 興せ
起こる 起こらない 起こります
起こった
起こる 起これば 起これ
興る 興らない 興ります
興った
興る 興れば 興れ

補足送り仮名は、現代の一般的な表記では「起こす」「起こる」「興す」「興る」と書きます。「起す」「起る」のように送り仮名を省いた表記も見られますが、辞書サイトの見出しや解説では、読みやすさを考えて「起こす」「起こる」に統一するのが標準です。なお、「興す」は「興こす」とは書きません。送り仮名の付け方の点でも、「起こす」と「興す」は異なるので注意が必要です。

補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「起こす」「興す」は、会社・事業・産業などの場面で意味が重なり、どちらでも書ける場合があります。「起」のほうが意味の範囲が広く、日常的な多くの場面で使えます。「興」は「盛んにする・盛んに立ち上げる」という意味に限られ、改まった文章や、勢いを強調する場面で選ばれます。迷ったときは、関連熟語(起立・起床・起源/興隆・振興・復興)を思い浮かべると、選びやすくなります。

■ まとめ
「おこす・おこる」と読む漢字には、起こす・興す(起こる・興る)の二つがあります。もっとも一般的なのは「起こす・起こる」で、人を目覚めさせる・物を立てる・新たに事象を生じさせるなど、日常の広い場面で使われます。「興す・興る」は衰えたものを盛んにする・新たに盛んに立ち上げる場面に限られ、国・産業・家業など改まった対象に用いられます。
「会社をおこす」「事業をおこす」など、両方で書ける場面では、中立的・日常的なら「起こす」、勢いを強調するなら「興す」と使い分けられます。また、「町おこし」「村おこし」のように平仮名で書くのが一般的な語もあります。なお、腹を立てる意味の「おこる」は「怒る」で、別の語です。迷ったときは関連熟語(起立・起床/興隆・振興・復興)と結びつけて考えると、ほとんどの場面で正しく書き分けられます。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。

ページ先頭に戻る