「はなす・はなれる」の使い分け(離す・放す)
同じ「はなす」と読む漢字には、離す・放すの二つがあります。それぞれ意味によって書き分けられ、くっついていたものの間に距離をつくる「離す」、つかんでいたものや閉じこめていたものを自由にする「放す」と整理されます。対応する自動詞「はなれる」は、距離ができる意味では「離れる」と書きます(「放れる」という形もありますが、現代では用法がごく限られます。詳しくは後述します)。「離す」と「放す」は、いずれも「くっついていない状態にする」という共通点があるため、特に「手をはなす」のような場面では混同されやすい代表的な同訓異字の一つです。このページでは、文化庁の使い分け例にもとづきながら、それぞれの意味と例文をくわしく見ていきます。
「はなす・はなれる」の書き分け ―結論
離す/離れる = くっついていたものの間に距離をつくる・へだてる(机を壁から離す・目を離す/故郷を離れる・親元を離れる)
放す/放つ = つかんでいた手をゆるめる・閉じこめていたものを自由にする(手を放す・犬を放す・鳥を野に放す)
分かりやすい目安は、それぞれの字を含む熟語で覚えることです。「離す」は分離・隔離・離脱の「離」、「放す」は解放・放出・放牧の「放」。「距離をつくる・へだてる」なら「離」、「手をゆるめて自由にする・解放する」なら「放」と整理すると迷いにくくなります。なお、「はなれる」は基本的に「離れる」と書きます。
一覧で見る使い分け
二つの「はなす」を、意味と典型的な使い方で比べると次のようになります。
| 漢字 | 意味の中心 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|
| 離す | くっついていたものの間に距離をつくる・へだてる | 机を壁から離す 目を離す 二人の間を離す 席を離す |
| 放す | つかんでいた手をゆるめる・自由にする・解き放つ | 手を放す 犬を放す 鳥を野に放す 魚を川に放す |
以下では、それぞれの漢字をくわしく見ていきます。
離すはなす / 離れるはなれる
離すは、くっついていたものや近くにあったものの間に距離をつくる・へだてる場合に使う字です。漢字「離」には「はなれる」「わかれる」の意味があり、「分離」「隔離」「離脱」「距離」などの熟語からも、その性格がうかがえます。物どうしの距離だけでなく、「目を離す」「気持ちを離す」のように、注意や心の対象から距離をとる意味でも使われます。自動詞「離れる」は、もとあった場所・状態から距離ができる意味で広く使われる字です。
主な意味と用法(離す)
- 物と物の間に距離をつくる:机を壁から離す/椅子を離す/間隔を離す
- 人と人の間をへだてる:二人の間を離す/けんかしている子を離す
- 注意・視線をそらす:目を離す/視線を離す/注意を離す
- 差を広げる・引き離す:後続を離す/二位を大きく離す
- 結びつきを断つ:考えから離す/業務から離す
主な意味と用法(離れる)
- もとの場所から遠ざかる:故郷を離れる/席を離れる/東京を離れる
- 所属・関係から外れる:親元を離れる/会社を離れる/チームを離れる
- 気持ち・関心がそれる:気持ちが離れる/心が離れる/興味が離れる
- 差がひらく:先頭から大きく離れる/実力が離れる
- かけ離れる:事実から離れる/常識から離れる
例文
- 机を壁から少し離して、掃除機をかけやすくした。
- 幼い子どもから一瞬たりとも目を離せない。
- 進学を機に、長年暮らした故郷を離れることになった。
放すはなす
放すは、つかんでいたものから手をゆるめる・閉じこめていたものを自由にする・解き放つ場合に使う字です。漢字「放」には「はなつ」「ゆるす」「ほうる」の意味があり、「解放」「放出」「放牧」「放流」「放免」などの熟語からも、その性格がうかがえます。「離す」が物と物の間の距離に重点を置くのに対し、「放す」は束縛・拘束をやめて自由な状態にすることに重点があります。
主な意味と用法(放す)
- つかんでいた手をゆるめる:手を放す/綱を放す/ロープを放す
- 閉じこめていた生き物を自由にする:犬を放す/鳥を放す/魚を川に放す
- 放し飼いにする:牛を野に放す/鶏を庭に放す
- 動詞の連用形に付いて「そのままにしておく」の意:開け放す/言い放す/突き放す
例文
- つり橋の手すりから手を放すと、思わずよろけてしまった。
- 捕まえた小魚を、もとの川に放してやった。
- 夏の夜は、窓を開け放して寝ることが多い。
ご注意「放す」は束縛をゆるめて自由にするという意味が核心です。「机を壁から放す」「目を放す」のように、単に距離をとる意味では「放す」とは書かず、いずれも「離す」を使います。「解放」「放牧」「放流」など関連熟語が当てはまるかどうかを確かめると判断しやすくなります。
「放れる」について
「放す」に対応する自動詞として「放れる」という形もあります。「綱を放れた牛」「矢が弦を放れる」のように、つながれていたものや張られていたものが自由な状態になる場合に使われますが、現代の一般的な文章では用例が限られ、多くは「離れる」あるいは「放たれる」で表されます。日常的な「もとの場所から遠ざかる・所属から外れる」意味の自動詞は、原則として「離れる」と書きます。
迷いやすいケース
「はなす・はなれる」の使い分けで、特に判断に迷いやすいケースを取り上げます。
「手をはなす」は「離す」か「放す」か
「手をはなす」は、場面によって「離す」「放す」のどちらでも書けますが、意味の重点が異なります。「手を離す」は触れていた手を物から遠ざけるというニュアンス、「手を放す」は握っていた手をゆるめて自由にする・解放するというニュアンスです。たとえばハンドルや綱など、握っていたものから手をゆるめる場合は「放す」がより自然です。一方、ふれていた物から手を遠ざける動作に重点があるときは「離す」がふさわしくなります。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 手を離す | 触れていた手を物から遠ざける(距離) | 壁から手を離す 赤ん坊から手を離せない |
| 手を放す | 握っていた手をゆるめて自由にする(解放) | ハンドルから手を放す 綱から手を放す |
補足基本的な目安としては、人と人とがつないでいた手を解くような「分離」の場合は「離す」を使い、自分が握っていたもの(物や手綱など)の拘束を解いて自由にする場合は「放す」を使います。ただし、日常的には「ハンドルから手を離す」のように書かれることも多く、厳密な区別が難しい場合もあります。迷ったときは、「解放」のニュアンスが強ければ「放す」、それ以外は「離す」と覚えておくとよいでしょう。
「目をはなす」は「離す」
「目をはなす」は「離す」を使います。視線・注意を対象からそらす意味で、「目を離した隙に」「子どもから目を離せない」などの形で広く使われます。「目を放す」とは書きません。同じく「気を離す」「注意を離す」のように、注意や心の対象から距離をとる場合も「離す」です。
「鳥をはなす」「魚をはなす」は「放す」
飼っていた鳥や、釣り上げた魚をもとの自然にもどす場面は「放す」を使います。閉じこめていた・つかまえていた生き物を自由にする意味で、「放鳥」「放流」「放生」などの熟語につながる用法です。「鳥を離す」「魚を離す」とは通常書きません。同じく「犬を放す(放し飼いにする)」「牛を野に放す」なども「放す」です。
「席をはなれる」「故郷をはなれる」は「離れる」
「席をはなれる」「故郷をはなれる」「親元をはなれる」など、もとの場所や所属から遠ざかる・外れる場面はすべて「離れる」を使います。自動詞の「はなれる」は、現代では原則として「離れる」と書くと覚えておけば、ほとんどの場面で迷いません。
「突きはなす」「開けはなす」など複合動詞は「放す」
動詞の連用形に付いて「そのままにしておく」「思いきって~する」の意味を加える接尾的な用法は、「放す」を使います。「突き放す」「言い放す」「開け放す」「解き放す」などがこれにあたります。これらは「束縛をなくす・そのままの状態にする」という「放」の核心的な意味とつながっており、「離す」とは書きません。
「引きはなす」は「離す」
レースや競争で「二位を大きくひきはなす」のように差を広げる意味の「ひきはなす」は、「引き離す」と書きます。「離」の「距離をつくる」という意味と結びついた使い方です。なお、けんかしている二人を間に入って引き分ける場合の「引き離す」も同じく「離」を用います。
「はなれる」と「放れる」
「はなれる」は、現代では原則として「離れる」と書きます。「放れる」という形は、「綱を放れた牛」「矢が弦を放れる」のように、つながれていたものや張られていたものが自由になるという限定的な意味で使われることがありますが、用例は多くありません。日常的な「席を離れる」「故郷を離れる」「気持ちが離れる」などは、すべて「離れる」を用います。
| 表記 | 意味の重点 | 例 |
|---|---|---|
| 離れる | もとの場所・状態から距離ができる(一般的) | 故郷を離れる 席を離れる 気持ちが離れる |
| 放れる | つながれていたもの・張られていたものが自由になる(限定的) | 綱を放れた牛 矢が弦を放れる |
対応する自動詞・他動詞のまとめ
「はなす(他動詞)」と「はなれる(自動詞)」の対応を整理すると、次のようになります。
| 意味 | 他動詞 | 自動詞 | 例 |
|---|---|---|---|
| 距離をつくる・へだてる | 離す | 離れる | 机を壁から離す 故郷を離れる |
| 束縛をゆるめて自由にする | 放す | 放れる(限定的) | 鳥を放す 綱を放れた牛 |
補足このページの使い分けは、文化庁「異字同訓」の漢字の使い分け例を参考にした標準的な目安です。「離す」と「放す」は意味が重なる場面もあり、「手をはなす」のように文脈によってはどちらでも書ける場合があります。迷ったときは、関連する熟語(分離・隔離・距離/解放・放牧・放流)を思い浮かべると、選びやすくなります。
■ まとめ
「はなす」と読む漢字には、離す・放すの二つがあります。「離す」は、くっついていたものの間に距離をつくる・へだてる場面に使う字で、「机を壁から離す」「目を離す」「故郷を離れる」のように広く使われます。「放す」は、つかんでいた手をゆるめる・閉じこめていたものを自由にする場面に使う字で、「手を放す」「鳥を放す」「開け放す」のように使います。
自動詞「はなれる」は、現代では原則として「離れる」と書きます。迷ったときは関連熟語(分離・隔離/解放・放牧)と結びつけて考えると、ほとんどの場面で正しく書き分けられます。他の同訓異字については同訓異字(異字同訓)とはのページに一覧があります。
