漢字の成り立ち
漢字は、長い歴史の中で形を整えてきた文字であり、一字一字に作られた背景があります。漢字を成り立ちや用法の観点から整理する考え方を六書(りくしょ)といい、現在では「象形・指事・会意・形声」の四つの構造分類と、「転注・仮借」の二つの用法分類を合わせた六種類で説明されるのが一般的です。
「成り立ち」とは何を指すのか
漢字の「成り立ち」とは、その文字がどのような発想で、どのように作られたかという由来のことです。たとえば「山」は連なる山の姿をかたどって作られた字ですし、「林」は「木」を二つ並べることで木が立ち並ぶ様子を表した字です。漢字の多くは、見た目の形や、組み合わせる部品によって意味や音を表す工夫がされています。
こうした成り立ちの違いを整理し、漢字を分類する考え方として古くから用いられてきたのが、次に紹介する「六書」です。
六書(りくしょ)― 漢字を六つに分類する考え方
六書とは、漢字を成り立ちと用法の観点から六つに分類する考え方で、後漢の許慎(きょしん)が著した『説文解字(せつもんかいじ)』によって体系化されたとされています。漢字を学ぶうえでの基本的な枠組みとして、漢和辞典や漢字の解説書でも広く用いられています。
六書は、大きく次のように二つに分けて捉えることができます。
| 分類の方向 | 内容 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| 成り立ち・構造による分類 | 文字そのものがどのように作られたかを表す分類 | 象形・指事 会意・形声 |
| 用法による分類 | すでにある漢字を、どのように使うかを表す分類 | 転注・仮借 |
「漢字の成り立ち」というときは、本来は構造による四分類を指して使われることが多いですが、六書全体を含めて「漢字の成り立ち」として紹介されることもよくあります。六書全般についての詳しい解説は、六書(りくしょ)のページもあわせてご覧ください。
成り立ち・構造による四分類
漢字の「成り立ち」の中心となるのが、次の四つの分類です。それぞれの詳しい解説は、各リンク先のページもご覧ください。
| 名称 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 象形 (しょうけい) |
物の形をかたどって作られた文字 | 日・月・山 川・木・目 |
| 指事 (しじ) |
形に表しにくい事柄を、点や線などの記号で示した文字 | 一・二・上 下・本・末 |
| 会意 (かいい) |
二つ以上の字の意味を組み合わせて新しい意味を表した文字 | 林・森・休 明・信・男 |
| 形声 (けいせい) |
意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた文字 | 清・晴・請 河・松・銅 |
象形文字(しょうけいもじ)は、物の形を絵のように描いて作られた漢字です。漢字のもっとも基本的な作り方であり、ほかの分類の漢字を作るうえでの土台にもなっています。たとえば「日」は太陽、「月」は三日月、「山」は連なる山、「川」は流れる水、「木」は枝と根を持つ立ち木、「目」は人の目をかたどったものです。現在の字形は線が整理されて記号的になっていますが、甲骨文字や金文といった古い字形をたどると、より絵に近い形だったことが確認できます。
指事文字(しじもじ)は、形のないものや、絵では表しにくい抽象的な事柄を、点や線などの記号の関係性によって表した漢字です。たとえば「一」「二」「三」は線の本数で数を表し、「上」「下」は基準となる横線の上下に印を加えて位置関係を示しています。「本」は「木」の根元の位置に印を加えて「もと」を、「末」は枝の先の位置に印を加えて「すえ」を表すなど、すでにある象形文字に印を加えて作られた指事文字もあります。
会意文字(かいいもじ)は、すでにある二つ以上の漢字を組み合わせ、それらの字の意味を合わせて新しい意味を表した漢字です。たとえば「林」は「木」を二つ並べて木立を、「森」は「木」を三つ重ねてさらに木が茂る様子を表しています。「明」は「日」と「月」を組み合わせて明るさを、「休」は「人」が「木」のそばに寄り添う姿で休息を、「信」は「人」と「言」を合わせて偽りのない言葉を表しています。なお、日本で独自に作られた漢字(国字(こくじ))には、「峠」(山+上+下)、「働」(人+動)、「畑」(火+田)など、この会意の方法で作られたものが多く見られます。
形声文字(けいせいもじ)は、意味を表す部分(意符・いふ)と音を表す部分(音符・おんぷ)を組み合わせて作られた漢字です。たとえば「清・晴・請」は、いずれも右側に「青」を持ち、これが共通する音「セイ」を表しています。一方、左側の「氵(水)」「日」「言」は、それぞれ水・太陽・ことばに関わる意味を担っています。形声の方法は、意味と音を担う部品を組み合わせるだけで効率よく新しい字を作れるため、漢字の中でもっとも多く用いられ、現存する漢字の八割以上が形声文字であるといわれています。
用法による分類 ―転注と仮借
「象形・指事・会意・形声」が文字そのものの作り方に関する分類であるのに対し、「転注」と「仮借」はすでにある漢字の使い方に関する分類です。新たに字を作るのではなく、既存の漢字に新しい意味や用法を与える方法と考えるとわかりやすいでしょう。
| 名称 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 転注 (てんちゅう) |
ある漢字の意味を、関連する別の意味へ転用する方法(解釈には諸説あり) | 楽(音楽→たのしい) 令(命じる→長官) |
| 仮借 (かしゃ・かしゃく) |
その語を表す字がないとき、同じ(または近い)音の別の字を借りて表す方法 | 豆(たかつき→まめ) 我(武器→わたし) |
転注は、ある漢字の意味を、関連する別の意味へと広げて使う方法とされています。たとえば「楽」はもともと音楽を表す字でしたが、音楽が人々を楽しませることから「たのしい」という意味でも使われるようになったとされ、しばしば転注の代表例として挙げられます。ただし、転注の定義については古くからさまざまな解釈があり、六書の中でもっとも定説のないものとされています。学者によって挙げる例も異なり、現在もはっきりとした統一見解はありません。
仮借は、ある語を書き表す字がないときに、同じ音または近い音の別の字を借りて、その語を表す方法です。意味のうえでのつながりはなく、もっぱら音を借りる点が特徴です。たとえば「豆」はもともと食物を盛るための高坏(たかつき)と呼ばれる脚付きの器をかたどった字でしたが、同じ音であった「まめ」を表す字として借用され、現在では植物の「まめ」の意味で広く使われています。「我」も本来は刃のついた武器の形をかたどった字でしたが、一人称代名詞「われ」を表す字として借用され、現在ではほぼその意味でしか用いられません。外来語の音を漢字で写す(例:亜細亜=アジア、亜米利加=アメリカ)といった使い方も、広い意味では仮借に通じる用法といえます。
六書の歴史 ―『説文解字』との関わり
「六書」という考え方は、古くは『周礼(しゅらい)』などにも名前が登場するとされていますが、それを体系的に整理して具体的な漢字の説明に用いたのが、後漢の許慎による『説文解字』(西暦100年頃成立)です。説文解字では、約一万字の漢字を540の部首に分類するとともに、各字の成り立ちを六書の枠組みに沿って説明しています。
説文解字は、漢字の字源研究におけるもっとも古く重要な書物として位置づけられており、その後の漢字辞典や字源研究の基礎となりました。現代の漢和辞典に見られる成り立ちの説明も、説文解字を踏まえつつ、後の研究成果を加える形でまとめられています。
一方で、20世紀以降に進んだ甲骨文字や金文の研究によって、説文解字の解釈とは異なる字源が明らかになった漢字も少なくありません。そのため、漢字の成り立ちは固定された絶対のものではなく、研究によって今も少しずつ更新され続けている分野でもあります。
成り立ちを知ることのメリット
漢字の成り立ちを知ることには、次のような利点があります。
- 意味の理解が深まる:「休」が「人」が「木」のそばで休む姿だと知れば、字の意味が映像として頭に残ります。
- 読み方の手がかりになる:形声文字の音符を意識すると、「清・晴・請」がすべて「セイ」と読むなど、未知の漢字でも読みを推測しやすくなります。
- 漢字を覚えやすくなる:字を部品ごとに意味づけできるため、丸暗記よりも記憶に定着しやすくなります。
- 似た漢字の区別がつきやすくなる:成り立ちから違いを理解することで、形の似た漢字を混同しにくくなります。
あわせて、漢字を構成する部分の位置に着目する考え方として「偏旁(へんぼう)」、漢字を整理する見出しとしての「部首」もあわせて知っておくと、漢字をより立体的に捉えることができます。
補足すべての漢字が、六書のどれか一つに明確に分類できるわけではありません。研究者によって解釈が分かれる漢字も多く、一つの字が複数の成り立ちで説明されることもあります。六書はあくまで漢字を理解するための基本的な枠組みのひとつとして捉え、絶対的なルールではないという点も覚えておくとよいでしょう。
■ まとめ
漢字の成り立ちとは、その字がどのように作られたかを表す由来のことで、構造による分類「象形・指事・会意・形声」と、用法による分類「転注・仮借」を合わせた六書(りくしょ)として体系化されています。なかでも形声文字は漢字全体の八割以上を占め、漢字の主流となっています。
成り立ちを意識すると、漢字の意味や読み方の手がかりが見えやすくなり、覚えやすさや読み解く力も自然と高まります。漢字を一つひとつ「形」と「由来」の両面から眺めることで、その奥にある文字の世界をより豊かに味わうことができるでしょう。
